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からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話

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 (間にあったぁ~)・・・・
痺れるような緊張感から、貞園が解放される。
カウンター内へ戻った貞園の背中を、安堵の汗がしたたり落ちていく。
その時。コンコンと入口のドアが軽くノックをされる。
表で警備にあたっている若い者が、ぎりぎりの幅で細くドアを開ける。
『ママさん。近所の花屋が、お祝いの花を運んできやした。どうしやすか?』
男は身体で、入口をふさいでいる。
店内にいるはずのママを、目で探している。


 「今頃の時間にお祝いの花?。誰からの花だろう。不思議だねぇ」


 「古い昔馴染みお客さんから、至急、届けろと言われたそうです。
 旅行中のため、顔が出せないそうです。
 花だけでも届けておいてくれと、ついさっき電話がかかってきたそうです。
 『K』という人から頼まれたと言えば、君来夜のママもすぐにわかると、
 花屋の男が言ってます」

 「Kさん?。誰だろうね。まぁいい。じゃ、入ってもらってくださいな」

 Kという名前は、すぐには思い当たらない。それでもママは立ち上がる。
ドアに向かって歩きはじめる。
老人を取り巻いている3人は、それぞれの懐へ用心深く手を入れる。
『おい』。入口のドアを塞いでいた見張り役が、ママの接近を確認する。
『OKだってよ、中へ入れ』花屋を促す。

  まず、リボンのついた大きな花束が現れる。
花屋の顔はまったく見えない。花束の陰に完全に隠れている。
帽子が花束越しに揺れている。これでは人相を確認することが出来ない。
ママは信用しきっているのか、『ご苦労さま』と警戒する素振りさえみせない。
花束がゆっくり移動していく。

 ママの手元へ渡された瞬間、貞園から、花屋の横顔がチラリと見えた。
動物的な鋭い目に、はっきりとした見覚えがある。
(あの日の銃撃犯だ!。冷たそうなあの目。あの目に見覚えがあるもの!)
一瞬にして貞園の胸の鼓動が高鳴る。緊張がピークへ達する。

 カウンターの内側で貞園の指先が、照明のスイッチを探しはじめる。
震える指先が壁を伝いながら、そこへあるはずのスイッチへ移動していく。
何度も記憶に刻んできたスイッチの場所が、貞園の指先が移動していく。
だが貞園の指先に、スイッチの感触は伝わってこない。

 『あせるんじやないぞ。タイミングが肝心だ。
 いきなり電気を消しても早すぎる。だが、犯人が発砲してからでは遅すぎる。
 空気をしっかり読め。頃合を見極めることが大切だ』


 岡本の言葉が、冷たい汗を感じている貞園の脳裏へ蘇ってくる。


 『有った!』。貞園の指先が、ようやくスイッチを探り当てる。
『早すぎてもまずいが、遅すぎてもまずい。勝負は一瞬だ。
誰かが先に必ず動き出す。
護衛の男たちが拳銃らしきものを出した瞬間に、電気を消せ。
それが電気を消すためのタイミングだ。あせるな、急ぐなよ。
ひたすら様子を見ながら、その瞬間を待つことだ』


 貞園が、あの日の岡本のアドバイスを思い出す。
震えて続けている貞園の指先が、照明のスイッチの上をためらいながら
行ったり来たりしている。