隣と彼方 探偵奇談9
「敏捷性はバド部だけの専売特許じゃねえぞ。それにうちだって、走り込みではどこにも負けてない」
次いで発言したのは吹奏楽部とロボット研究部だ。
「おやおや、文化部をお忘れですか?吹奏楽部は、もはや運動部も同然の体力を有していますから。まあきみらは、重い楽器を持って移動するマーチングのすごさをご存じないか」
「吹奏楽部だけではない。我がロボット研究部だって、緻密な計算のもと頭脳を武器に戦える」
あちこちで小さな火花が飛び交っている。
「今年は目立つ一年もいますしねえ。陸上部の天谷とか弓道部の須丸とか。部活対抗リレーは、例年に増してさらに注目度が高いと思われます」
生徒会長が興味なさげに言うが、それに敏感に反応した二人がいた。
陸上部主将・駒形瞬司(こまがたしゅんじ)と、弓道部主将・神末伊吹だ。
「天谷はアホだしチャラいし女癖は悪いが、走力に関してはもはや敵なし。十年に一度の逸材といったところだろうか。県大会での華々しいデビューをご覧になった方も多いから、すでに周知の事実だろう。弓道部には悪いが、うちに軍配があがるかな」
得意げに言い放つ駒形に、すかさず伊吹が返す。
「うちの須丸は一見するとボヘーッと間抜け面をさらしていることも多いが、どんなときにも冷静に己を保てる強靭な精神力の持ち主であり、秘めたる闘志は誰にも負けない。軟派な天谷とは違い、誠実さもあるしな」
カーン、と両者の間でゴングが鳴った。
「あの二人、後輩をディスってるように見せかけてべた褒めだね」
「溺愛してんのな~」
火花を散らす二人を、周囲は微笑ましく見守る。
作品名:隣と彼方 探偵奇談9 作家名:ひなた眞白