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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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隣と彼方 探偵奇談9

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「須丸!」

声をかけられ気が付くと、そこは弓道場だった。友人らが覗き込んでくる。机に突っ伏して、眠っていたようだ。

「おまえ風邪ひくぞー」
「うわあ、俺寝てた?」
「ウトウトしてたぞ。昨日ガンバリすぎたかー?」

昨日の疲れが抜けていないのだろうか。朝練とはいえ、情けない。

「お、主将の立ちだ」

射場に、伊吹の背中が見える。伊吹が射に入るとき、弓道場の雰囲気がちょっとだけ変わる。主将の射とは、やはりそれくらい影響力があるものなのだと思う。静かで、音もなく、張りつめたというよりは、柔らかな射。

(ああ、そうか…)

その背中を見つめながら、瑞はさきほどの夢を思い出す。物見をいれる伊吹の視線が、朝の空気へと向けられている。表情は見えない。

(こんなに近くにいるのに…まだ辿り着いていないっていうことか…)

絡まった糸の先。
まだ遠く、見えない行方。

伊吹の放つ矢が、次々と的を射抜く。弦音が心地よく響いている。

それでも、向かう先が明確に、ぶれることなくここに在るのなら。

「おまえ寝てたろ、いまさっき!」

射場を出た伊吹が、瑞を見つけて笑う。

そう、迷うことなく向かうだけだ。
いつかの自分が失った、このひとのもとへ。




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