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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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彼が残した風景

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 数曲の演奏の後、ジャズの彼らはステージから降りると対岸へ向かう船の桟橋の方に楽器を抱え歩き出した。
帰るのかしら・・・。たしか対岸から来たと言っていた。
私は衝動的に彼らの後を追った。
少し遠目で彼らの行動を見ていると、やはり渡し船の客船で帰るようだ。
私は慌てて追うように彼らが乗る船の切符を買った。ほとんど思いつきだというか感性がそうさせた。

そして船の屋上デッキにいる彼らを見つけると、私は図々しく傍に座った。
船は対岸まで10分もかからないそうだ。
初めての九州行きがこんなカタチで行こうとは自分ながら発作的だ。
明日の日曜日も休暇を取ってるし、行き当たりばったりも悪くない。
多分こういった強い心も別れた彼がくれたものだ。
私はずいぶん勉強したようだ。

「あれっ、あなたも門司からですか?」突然、サックスの彼が私に声をかけてきた。
「いえ、私は観光で・・・」
「さっきはずいぶん熱心に聞いておられましたね」
「見えてたんですか?」
「見えてたというか、見てました」そう言うと男は頭を掻き出した。
「なんだか本当に楽しんでるな~と思って・・・」と男は続けて私へ言った。
私はこの展開に心臓が海峡の波以上に荒立っていた。
だけど海峡を渡る風が船の上の自分を勇気づけてくれる。
「JAZZ好きなんですよ。お店で演っておられるそうですね。見てみたいわ」
ジャズの男の顔が緩んだような気がした。
「いいですよっ!こちらこそっ!」彼の声は船のエンジン音に負けないくらい大きかった。

演歌でなくJAZZだとは思わなかったこの海峡に私も心が緩くなるのを感じた。
船は流れる波を横切り、本州から九州へ向けて舳先で波を切って進んでいる。
そして私は忘れていた本の中から見つけた元カレの絵葉書をバックの中でこっそり二つに折った。
対岸の門司の桟橋はすぐそこに見える。
彼が残した風景の中で私はまた未来へと進もうとしていた。

                               (完)


参考
「Ruby My Dear」
https://www.youtube.com/watch?v=jmwjpHJHolM
作品名:彼が残した風景 作家名:海野ごはん