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からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話

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 「なるほど。たしかに覚悟は決めているようだ。
 だがな康平。悪いが、この話を、受けることはできない。
 胸に手を当てて、もう一度よく考えてみろ。
 お前の考え方は正気じゃねぇ。
 堅気の人間としての常識を大きく踏み外している。
 ヤクザの世界にも付き合いがある。義理もあれば仁義もある。
 お前のように自分中心に都合よく、好き勝手に物事を考えて行動していたら、
 そのうち、世の中が収まらなくなる。
 世間には法律というがある。規則を守って生きるのが、一般人の努めだ。
 極道にも横の連携がある。
 よその組の問題とは言え、そこへ口を挟むのは仁義に反する。
 極道に理不尽を頼めばどういうことになるか、身をもって教えてやろう。
 おう。かまわねえからこの小僧を、2、3発、本気で痛めつけてやれ。
 手を抜くんじゃねえぞ。
 ただし、致命傷だけはあたえるな。あとが厄介なことになる」

 「しかし親分。それじゃ話が・・・・」


 「ばかやろう。親分と呼ぶんじゃねぇ。
 人様の前では社長と呼ぶんだ、このトンチキ。
 康平。なにがあろうと、お前さんの頼みごとには応えられねぇ。
 俺たちは今夜、話は一切しなかった。
 逢ってもいないということで、これで終わりにしょう。
 だが極道に物事を頼めば、金ばかりか、あとあと厄介で面倒なことになる。
 一般人なら大変な目にあわせる。だが、お前さんは俊彦の可愛い一番弟子だ。
 痛い目を見てもらうだけで、俺も我慢する。
 これに懲りたらつまらないことで、極道の力を借りるんじゃねぇ。
 一般人なら、先にやるべきことが山ほど有るだろう。
 そんなざまじゃ、せっかく助けた美和子だって、また失う羽目になるだろう。
 お前さんが住んでいるのは、法律と常識に守られている堅気の社会だ。
 俺たちは、仁義というやつを背負って生きている。
 義理人情で生きていく異端児の世界だ。
 2つの世界に、交わる道はねぇ。共通の利益なんてやつも存在しねぇ。
 これに懲りたらもう2度と、俺の前に現れるな。
 俺はお前さんみたいに、甘ったれで、自分勝手で、ご都合主義な男が
 大嫌いだ。
 腹が立ってきた。おい。俺の分までよけいに2、3発、こいつを
 ぶん殴ってっておけ!」

 激しく砂利を踏みしめて、岡本が2人を置いたまま立ち去っていく。
白いベンツではもうひとりの青年が、運転席でタバコを
ゆうゆうとふかしている。

 「ばかやろう。お前も、ちょっと目を離すとすぐこのざまだ。
 最初の1本を我慢すれば、タバコなんか簡単に辞められると教えただろう。
 どいつもこいつも、気が利かねぇやつばかりだ。まったくもって・・・・。
 それも仕方ねぇか。俺の教育不足のせいだ。
 もう少ししたら康平とお前の相棒が、ここへ戻ってくる。
 そうしたら何も言わず、康平を自宅まで責任もって送り届けてこい。
 場所は、ここから大胡街道をまっすぐ西へ走る。
 新里の駅を過ぎると、左に簡易郵便局がある。
 そこを右折すると、高台に大きな桑の木がある。その下が康平の実家だ。
 なにヘラヘラ笑っているんだ、このばかやろう。
 ・・・・そうだ。お前の推察の通りだ。
 そこが俺の初恋相手、千佳子の嫁ぎ先だ。
 これから送っていく康平は。そいつの一人息子だ。
 そいつが終わったら、そのまま帰っていいぞ。
 俺は俊彦は、タクシーで帰る。
 あ、いけねぇ、忘れるところだった。この金も降ろす時に返してやれ。
 康平が持ってきた現金だ。だが受け取るわけにはいかねぇ。
 ちゃんと返してやってくれ。
 何を聞かれても、いっさい、余計なことを言うんじゃねぇぞ。
 これで何か2人で、美味いもんでも食え。ほら」

 運転席の青年へ康平の現金と、小遣いを手渡す。
『うまくやるんだぜ』と背を向けて、スナック「辻」へ戻っていく。


 (まったく・・・
 時の若いもんてやつは、どいつもこいつも助からねぇ野郎ばかりだ。
 初恋の千佳子の一人息子で、俊彦の一番弟子をぶん殴る
 俺の身にもなってみろ。
 情けなくて涙が出てきやがるぜ。
 畜生め。今夜は浴びるほど飲むとするか。
 辻のママと俊彦を思い切りいじめながら、うっぷんを晴らすとするか。
 まったくなぁ、・・・・悲しくてやりきれねえぜ、今夜は・・・)