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からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話

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 「相当なワルだな、お前は。
 店内で発砲されて、けが人や死人が出たらどうするつもりだ。
 協力者だというその女の子も、危険な立場にさらされる。
 やはり警察に委ねるべきだろう。
 今ごろになって、なぜ美和子をかばおうとしているんだ、お前は。
 狙撃犯と美和子は夫婦だ。
 運命を共有するのは、夫婦として当然のことだ。
 暴力団とつながっている狙撃犯は、どんなことをしての救いようがない。
 それでもお前は水面下で片付けて、女だけを助けてくれと俺に頼むのか。
 まったくもって、呆れ果てたやつだ。
 そこまで惚れているのならこうなる前に、いくつも手だてが有っただろう。
 すべては、後の祭りだ。
 往生際の悪い男だ、お前という男も」

 「はい。すべてを承知しています。
 でも、なんとしても美和子を、狙撃犯から取り戻したいんです。
 無理を承知で、こうして岡本さんへお願いにあがりました」

 「なるほど。すべてを承知の上でこの俺のところへ、頼みにきたわけか。
 話はよく分かった。
 じゃあせっかくだからその覚悟というやつを俺に見せてくれ。
 表に車が停めてある。そこまで来てくれ。
 お前さんに見せたいものがある」


 銀行の紙袋を懐へ収めた岡本が、ゆっくり立ちあがる。
案内されるまま、康平も少し遅れて表に出る。
午後10時を回ったばかりの駐車場。半分ほどが高級車で埋められている。
その様子は、ここへ来る人たちの『人種』を物語っている。
岡本の白いベンツは、一番奥まったうす暗い一角に止められている。
ベンツの運転席と助手席に、若い男2人の姿が見える。

 助手席へ回った岡本が、軽く窓ガラスをノックする。
2言3言、小さな声での会話が交わされる。男がベンツから降りてくる。
長身だ。岡本よりも頭一つは大きい。ゆうに185センチは有るだろう。

 「坊主。こっちだ」

 長身の青年を従えた岡本が、駐車場の裏手へ歩いていく。
此処のテナントは、国道122号線と、わたらせ渓谷鉄道に挟まれている。
少し歩くだけで、昼間なら、鉄道と渓谷を見下ろせる高台に出る。
足元から水音が絶え間なく聞こえてくる。
いまは何も見えない真っ暗闇の中で、岡本が立ち止まる。

 「もう一度だけ聞く。
 さっき俺に話したことは、全部ほんとうの話なんだろうな。
 それから、お前さんも本気なんだな。
 美和子を助けたいためだけに、極道の俺に頼って来た気持ちに、
 嘘はないんだな?。」

 暗闇の中で、岡本が鋭く康平を見つめてくる。
ひしひしと岡本の眼力が感じられる。
気迫に押されて康平が、思わず一歩下がりかける。
しかし。ここで下がってはならないと、拳を強く握りしめ、足を踏みしめる。
長身の青年は岡本の背後で、両腕をじっと組んでいる。
口をへの字に曲げたまま、微動だにしない。