からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話
からっ風と、繭の郷の子守唄(114)
「いじめたんじゃないでしょうね、と結局は怒られる岡本」
チロル風のドアの鐘がなった瞬間。
辻のママが、岡本のところへ駆け寄ってくる。
いつもの座席に、酒のしたくとすでに飲み始めている俊彦の姿がある。
ママが至近距離から、岡本の目を覗き込む。
「あんた。可愛い千佳子のひとり息子に、乱暴なんかしなかったでしょうね。
あやしい雰囲気で座敷を出て行ったんだもの。
もしやと思っていたけれど、あの子をボロボロなんかしたら、
このあたしが、承知しませんからね!」
「大丈夫だ。ボロボロにはなっちゃいないと思う。
だが、気の利かないあいつのやることだ。ボロくらいにはしたかもしれん。
手加減が下手くそだからなぁ、あいつは。
時々勢いが余ることもある。悪いなぁ、心配させちまって」
「誰があんたの心配なんかするもんか。心配しているのはあの子のことだ。
口で言えばわかるだろう。
それを昭和の任侠映画じゃあるまいし、最後は暴力でカタをつけようとする。
救いようがありませんねぇ。前近代のボケ極道は」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話 作家名:落合順平