からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話
からっ風と、繭の郷の子守唄(112)
「強面(こわもて)の岡本と堅気は、もともと棲む世界が異なる」
「珍らしいこともあるもんだ。
堅気の若い者が、俺に用事とは嬉しいね。
あとで蕎麦屋の俊彦もやってくる。だがそれまで仲良く時間を潰すとするか。
なんだ。酒も飲まずに俺の到着を待っていたのか。ずいぶん律儀だな
ママよ。いつもの焼酎を急いで用意してくれ」
約束の時間。スナック「辻」へ姿を見せた岡本が上機嫌な顔を見せる。
『どっこいしょ』と大きな声を上げ、腰をおろす。
終夜営業のスナック「辻」では、午後10時台、まだ客の姿は少ない。
混み始めてくるのは、飲食街が一日の営業を終える午前零時を過ぎてからだ。
「岡本さんは、東京都葛飾区の四ツ木葬祭場から始まった暴力団どうしの
抗争事件のことは、よくご存知でしょう?」
「住吉会系の幹部の通夜の席で、稲川会系で大前田一家の組員と名乗るやつが
当時の会長と幹部2人を射殺した事件だろう。
俺もその場にいた。そんな関係でよく覚えている。
それがきっかけで2003年。
前橋のスナックで、一般人を巻き込んだ襲撃事件が発生した。
たしか、3人の一般市民と、狙われた幹部の護衛役が死亡したはずだ。
なんだ。俺に用というのはそれに関連した話なのか?」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話 作家名:落合順平