からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話
(そうだよな、う~ん・・・)2人の会話が途切れてしまう。
安定期に入ったとは言え、いまの美和子の身体へ、この展開は過酷な
ものがある。
しかし2人に、これといった妙案は浮かんでこない。
警察へ情報を提供して、逮捕のために事前に動いてもらうのが
この場合の常道といえる。
だが何故か2人は、同じようにそのことに躊躇している。
「厄介過ぎる問題よねぇ・・・」
と貞園が、意味ありそうに康平を見つめる。
その目は、唯一の手段を握っている康平へ、決断を決めろと迫っている
警察があてにならないのなら、目には目で、歯には歯で対抗するしか
ないでしょうと、とその目は、明らかに康平へ語り続けている。
「お前もやっぱり、その手で解決したほうがいいと考えているんだな?。
水面下で片付けて、美和子へとばっちりがいかない方法を
考えているんだろう?」
「大当たりよ。当たり前じゃないの。
正しいことだとは思わないけど、他に方法がなければそれも有りです。
無用に美和子を、こんな事件に巻き込ませたくないでしょう。
私だってその覚悟があるからこそ、わたしのマンションに、
美和子をかくまったのよ」
(これで、何とかしてきて)と貞園が、銀行の紙袋を康平の前へ差し出す。
(なんだ、これ)いぶかる康平へ、早くしまえと貞園が目で合図を送る。
手応えのある紙袋を、康平が受け取る。
胸のポケットへ、素早くそれをしまい込む。
「それだけですが、とりあえず準備しました。
ああいう人たちに頼み事をするときは、それなりの費用がかかります。
いいのよ。どうせパパからせしめた取ったお金だもの。
美和子のために使うのなら、本望よ。
足りない分は、あなたがなんとかしてくださいね。
美和子の身体と、赤ちゃんは責任をもって私が守ります。
だからあんたは、発砲事件をどんな手を使ってもいいから、
未然に防いでください。頼んだわよ。康平」
「わかった。君が夜来香へアルバイトに行くのは、いつからだ?」
「今月の15日から頼まれています。だからいまから10日後のことです。
事態は急を要します。楽観もできません。
康平。ここらあたりが、男としての一番の踏ん張りどころです。
わかっているんでしょうね、わたしのお兄ちゃんは?」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話 作家名:落合順平