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からっ風と、繭の郷の子守唄 111話から115話

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 「可能性は、充分にあると思います。
 DV亭主はなんらかの弱みを、暴力団員たちに握られているらしいの。
 演歌師という仕事を利用して、スパイのように動いているらしい。
 拳銃を持っているということは、ヒットマンとして利用されている
 可能性もある。
 いずれにしても、油断できない事態です」

 「美和子が別離を決意したのは、そういう事情からなのか・・・・」

 「この鈍感!。バッカじゃないの。あんたのためでしょう!。
 美和子がようやく、キリをつけたのよ。
 誰のために亭主から逃げ出して来たと思っているの。
 みんな、あんたのためでしょう。
 あんたとやり直したいから、別れる決意を固めたのよ美和子は。
 最初からあんたがしっかりしていれば、こんな展開にならなかったはずです。
 でも今更そんなことを言っても、仕方がないことです。
 それよりさぁ、有事にそなえての対策が必要になるわねぇ。
 たぶん・・・」


 貞園が、『有事』という部分に力をいれる。
あらためて康平の目を覗き込む。
有事。それはまもなく、どこかでまた拳銃を使った事件が起こるという
ことを意味している。
3月の末。弾丸が打ち込まれたのは、暴力団幹部たちが時々顔を出す、
盛り場のスナック『夜来香(いえらいしゃん)』。
それに似た事件がまもなく起こると、貞園が真顔で自信たっぷり言い切る。

 「可能性があるとすれば、例の夜来香(いえらいしゃん)です。
 一週間ばかりアルバイトにきてくれと、ママからまた頼まれているの。
 ということはその一週間のうちの何処かで、幹部たちが
 顔を見せる可能性が有る。
 でもこれは、美和子には内緒の話です。
 あんた、美和子にしゃべっちゃ駄目よ。つまんないことを言わないでね」

 「本当か、それ。
 押し入れに隠しておいた拳銃がいつのまにか消えている。
 ちかいうちに、夜来香にまた幹部がやって来る。
 なるほど。確かにその一週間のうちに、襲撃するという可能性はある。
 だが、よくそんな情報をつかんだね。
 お前。香港マフィアか日本のやくざに、誰か知り合いでもいるのか?」

 「康平ったら、ひっぱたくわよ。本気で!、思いっきり!。
 真面目な一般市民に、なんで香港マフィアの知り合いがいるのさ、
 失礼を言うにもほどがあるわ。
 真面目な話をしているという時に、つまらない冗談なんか言わないの。
 だいいち、私の生まれは香港じゃありません。
 台湾なのよ、台湾。
 あんたこそ修行先の師匠の友達に、地元のワルがいるじゃないの。
 そっちの方から、なんとかならないかしら・・・・」

 「ああ・・・例の岡本氏ことか。しかし難しいだろうなぁ。
 背後で動いている組織の連中の正体が掴めれば、手も打てるだろうが、
 相手がはっきりしないうちは、たぶん、無理があるだろう」

 「ヤクザもダメとなれば、手の打ちようがありませんねぇ。
 どうするの。発砲事件が起きれば、あのDV亭主が警察に捕まることになる。
 そうなれば、美和子だって穏やかでなくなる。
 別れる決意は固めたものの、旦那の方は別れる気持ちはないみたいだもの。
 ややっこしい話になるのは、誰が見ても必然よ」