それから(それからの続きの・・・の続き)
「じゃあ、わたし、久し振りに両親の顔でも見に帰ろうかな、一人で居てもつまらないし・・」 と。
そして、新しい年を迎え、10日ほどが過ぎた時、俺達は、何時もの居酒屋で会った。
「どうだ、親っていくつになっても好いものだろ?」
と、親なんて全く縁の無い俺が言うと、
「うん・・、実はね、親に会ったのは1日だけ・・っていうか、一晩だけなんだ・・。わたしね、休みを利用してフィリピンに行ったの。」
と。
俺は、無言で彼女を見た。
そういえば、心なしか日焼けの跡が・・
「さんちゃんの大好きな国が見たくて・・」
「・・それで、どうだった?」
「良かったよ、とても。色んな処を訪ねて・・古い教会とか、街の市場とか・・、さんちゃんの言うゴミゴミしたディビソリアとか・・」
「あんな処に一人で行ったのか?」
「うん・・、ロートンの通りを歩いてね、何時かあなたが話してくれた中華街に向かう橋の上から、薄汚い水に浮かぶ浮草も見た。」
「そう・・」
「それでね、わたし、分かったの。」
「何が?」
「あなたは、此処に居ても、あの国に合わせて生活してるって・・。便利さに慣れない様に・・物を大切に・・無駄をしない様に・・。但し、楽器だけは別だけどね、もう気に入ったら何がなんでも買ってしまうんだから。」
「お前と出会ってから、一つしか買ってないぞ。」
「そうだけど、分かるの。」
「・・(その通りだから、何も言えない)・・。しかし、女性一人で行って、あの国が良かったなんて言う奴など珍しいな。」
「一人でなんか行ってないよ。何処でもさんちゃんと一緒に歩いたよ。」
「・・・」
「だから、怖くなんかなかったし・・。みんな親切だったよ。」
「・・・」
「わたし、行っても好いよ、あなたと一緒なら、ずっとあの国に住んでも好いよ・・。」
「ああ、そう(ったく・・どう応えれば良いんだ)。・・だけど何故わざわざ・・」
あの国に行くには、今の住まいからなら、関空を使う方が遥かに便利だ。それなのに何故わざわざ成田から・・? と考えるうちに・・、まさか・・ってな思いが浮かんで来た。
俺は、改めて多恵の顔を見た。
彼女は、笑いながら頷いた。そして、
「わざわざ・・遠回りしたのはね、さんちゃんと付き合ってるって、両親に話す為。」
「・・・」
「たった一晩だけ。それも、わたしが一方的に話して・・」
「・・」
「もう、二人とも驚いてた・・。開いた口がふさがらないって感じ。」
「バカだなぁ・・、この歳になって、ただ付き合ってるだけで親に話すのかよ。」
「わたし、ただ付き合ってるだけじゃないよ。しっかりあなたを見ながら、自分の事も見ながら付き合ってるつもり。」
「・・」
「父は、殆ど無言だったけど・・、母がわたしと二人だけになった時に、『離婚以来の落ち込んだ顔が、見違える様に明るくなった。きっと、彼から色んなものを貰ったんだろうね。あなたが失っていたものを取り戻せるといいね。』って、言ってくれた・・」
「・・」
「・・ふふ、それでね、一体何処まで関係が進んでるの?って、母が聞くのよ。・・わたし、『さんちゃん、子供だから、何もしてくれないの』って・・。・・さんちゃん、どうしてわたしに何もしてくれないの?」
「どうしてって・・、大切なものは、大切にしたいから・・」
って、俺は、つい言ってしまって・・、彼女の罠に嵌まってしまって・・
作品名:それから(それからの続きの・・・の続き) 作家名:荏田みつぎ