それから(それからの続きの・・・の続き)
それから(17) 出遭い、そしてー2
多恵と出会ってからの俺は、なんだか、今までの俺ではなかった。
家に帰ると、姐さんのお下がりのソファーに寝転び、高校時代の事などを、気付けば思っている。
決して良い思い出ばかりではないのだが、何故か思う・・思い出す。
ビター・アンド・スイートなんて、とても言える代物じゃない・・ なのに、何故・・
多恵からは、時々電話やメールが来る様になり、話の内容も、過去の思い出から、徐々にそれぞれの今になって行く・・。
「ねえ、さんちゃん、本当に好きな人、居ないの・・?」
「居るよ・・」
「そう・・」
「うん、いっぱい、居る。」
「そうじゃなくて・・、分かってるくせに・・」
「だから、俺は、気が多いの。これまでに好きになった人は、今でも、みんな好き。」
「結婚を考える様な人は・・?」
「・・・結婚自体は、時々考える。・・その相手となると・・、どうだろう・・。やっぱり俺は、一人で居る方が、好いのかなと・・」
「どうして?」
「それが分かればな・・」
などという話もする様になって来て、
(ちょいと、やばいぞ・・)
と考えたり、そのくせ心の中では、多恵という存在が、心地良く思えたり。
理由など分からない。
きっと、みんな、そうなのだ。
人が、人を好きになる瞬間など、あっという間。
ただ、あっという間だから、その瞬間が、あまりにも速く通り過ぎて、気付くまでに時間が掛かるだけ。
気付くまでに、別れる事だってあるのだろうな。
まったく気付かず、兎に角、別の要因で一緒になる場合だってあるかもな・・
そんなこんなを考えながら、俺達は、ときどき話し、たまには会い、何処かに出掛けて、宙ぶらりんな関係を続ける・・
男が 女を 愛するって・・何だ・・・・・
男が 女を 愛するって
とにかく 色々あり過ぎるんだよな
このところ くそ面白くない事ばかり続いてる
何処かのおっさんの運転する車が、急に脇道から飛び出して、寸での処でぶつかりそうに・・
なのに なんで俺が 奴に怒鳴られなきゃならないんだ・・
おまけに奴、車からわざわざ降りてまで、
「何 やっとるんじゃ!」 だって?
昨日は、遅くに電話してきた多恵が、挨拶もそこそこにシクシク泣き出すし・・ 俺は、黙って、彼女の泣き声を聞くだけで、一体何をどう言えば良いんだ。
「・・ごめんね、泣いたりして・・」
「べつに 好いさ。・・(俺が泣きたいよ。。)」
「うん・・」
「フィリピンはな、今とても暑いんだ。」
「そう・・」
「だから、もう朝から、通りに立ってるだけで、何だかムカついて来る・・。あんたが泣くのも、きっとそんなものだろ?」
「・・」
「年々歳は重ねるけど・・、人ってのは、そんなに成長しないのかも知れない。・・だから・・・」
「だから・・?」
「つまり・・、そういう事なんだ。」
「ふ~ん、そういう事なの・・」
「うん。」
「ふふ・・、好きだよ、さんちゃん・・」
「そう? ありがとな・・」
「うん・・。だから?」
「・・ああ、だから、幾ら大人の様に見えてもだな、意味も無く、子供の様に泣きたくなる時も有る。・・一人で泣きたい時とか・・誰かの前でとか・・、頭で考えるんじゃなくて、もっと他の何かがそう思わせるんだよな。」
「・・それで、それがフィリピンの暑さとどう繋がるの?」
「暑さとは・・繋がらない。」
「じゃあ、何と繋がるの?」
「そんな事、自分で考えろよ。泣いたのは、あんただろ?」
「禅問答みたいね。何時もの様に、冷たい言葉、ありがとう。」
「礼には及ばない。」
「お礼なんかじゃないって、分かってるくせに・・」
「そういう風に、訳分からないのが禅問答だろ?」
暫くそんな訳の分からない遣り取りの後、電話を置いた。
きっと、多恵、今度は一人で涙を流してるかもな。
もっと気の効いた言葉を言うべきだったかな・・。でも、
これも一つの愛だ。
このところ、急速に近付いて来る多恵の気持ちが分かる。
だが、今の俺は、誰と暮らしたって上手くやって行けるし、誰と暮らしたって何処か消化不良を感じるだろう。
そんな時期に、相手の気持ちを受け入れる様な素振りを見せたのでは、その相手に申し訳ない。ただの遊びで他人の人生を左右は出来ない。
人の勝手で、散々悔しい思いをさせられた俺が、一刻の気紛れかも知れない、そんな気持ちで・・特に、多恵だけは、傷付けたくないから。
遊びと言ったすぐ後だが、俺の彼女に対する気持ちは、愛だ。でも、それは、他の誰にでも感じる愛で、だた多恵一人へ感じる独特の愛ではない・・と 思うのだが、・・分からない。
だから、そんな事を考えて、なかなか眠れない・・
って、そんな翌朝のおっさんだ。
何も混雑した通りで、わざわざ車を降りて来てまで、文句言われる筋合いなど無いぞと、俺も、それだけが言いたくて車から出た。
「話が有るなら、脇に移動しろよ。何処までも付き合ってやるから・・」
そう小声で言うと、おっさん一瞬目をキョロキョロさせて、
「気を付けて運転せいと言うとるんじゃ。」
とだけ言って、車に戻った。
訳が分からないわ。。
まあ、いいか。これで遅刻せずに済みそうだし・・
ありがとう 温かさ
こんなに寒い夜だというのに
俺達は、1時間以上もゆっくりと歩いてる。
クリスマス前に
俺の妹みたいなチャイリンと
その家族にささやかな贈り物を郵便局に預けた日
俺と多恵は
この頃 ちょくちょく寄る居酒屋に行った。
そして
其処を出ると
ほんとに普通の話をしながら
俺達は、彼女のアパートまで歩く。
タクシーを使えば ほんの僅かな距離なんだけど
何時の頃からか
そこまで並んで歩く様になった。
だから最近
多恵は
やや踵の高い靴を
俺と会うその日だけ運動靴に履き替える。
「この靴を履いた日はね、・・なんだか朝から楽しいの。」
「そう・・」
「相変わらずね。」
「俺は、何時も運動靴だ。」
「また始まった・・ ひねくれ者だねぇ、君は・・」
「ありがとね・・、俺の事、分かってくれて・・」
「うん、最近ね、わたし、嬉しいんだ・・、わたしの前で、さんちゃんがどんどん素直になってくれるから。」
「俺、素直にひねくれてるのか?」
「うん、そう。ひねくれて喜ばれるって好いでしょ?」
「まあな・・」
・・・
「ありがとう。気を付けて帰ってね・・、それとも、少しうちで暖まってから帰る・・?」
「帰るよ。・・充分温まったから・・」
「・・・」
「ありがとな・・」
「うん・・、こちらこそ。」
さあ、俺んちへ帰るか、と
歩きはじめた時
多恵が、俺を呼び止めた。
そして
「さんちゃん・・、わたしも温まったよ、ありがとう・・」
と言った。
俺は、少しだけ唇を緩め
ほんの少しだけ頷いた。
俺の 知らぬ 間に
定期的になど、とても出来る事じゃないけれど、
俺をここまで育ててくれたフィリピンに、
ささやかなお礼のつもりで、小金が貯まると彼の地の恵まれない人達にと日用品などを送っている。
だから、
年末、会社が休日となる数日の間、色々な処でバイトをする。その事を話すと、多恵は、
作品名:それから(それからの続きの・・・の続き) 作家名:荏田みつぎ