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からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話

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 「曇ってきましたねぇ。外がまた一段と冷えてきたのかしら」

 千尋がハンカチで、フロントガラスをゆっくりふき始める。
助手席から運転席へ、少しずつ身体を乗りだしていく。
ふと、その手が停る。
『あら・・・』という小さなつぶやきが千尋の口からこぼれる。
康平を誘うように千尋の指が、上空を指し示す。

 「ね、見える?。・・・・ほら、あんなトコに、幸運の流れ星」

 『え?』康平が身体を乗り出す。

 康平が上空を見上げた瞬間。無防備の横顔へ、千尋が素早く唇を押し付ける。
慌てて振り返った康平の目の前に、恥ずかしさを精一杯こらえている
千尋がいる。

 「なんだったんだ、今のは。早すぎてよく分からなかったぞ・・・・」

 「どっちやの。上空の流れ星かしら。
 それとも、あたしからの突然のキスのほうかしら?」

 「後者の方さ。もちろん」

 「欲望に火をつけへん程度のキスどす。
 そないに言うなら、やり直しの、大人のキスなどをもういっぺん、
 どないですか?」

 「いいねぇ。君から、やり直しのキスをもう一度。
 それから俺のほうから、お返しのキスということで、もう一度いこう」

 「阿呆やねぇ。野暮なことはいいまへんの。
 回数のことなんか、どうでもええでしょ・・・もうわたしたちは
 大人やもの」