からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話
からっ風と、繭の郷の子守唄(107)
「群馬へやって来た千尋の新しい夢と、未だに残る淡い恋」
「恥ずかしがることはおまへんと、女医先生がおせてくれました。
自分の身体を守るため、これから病気と向き合うのそやし、
些細なことでもメモをして、記録に残しておきなさいと指導を受けました。
子宮を摘出したことで、ウチの病気が終わった訳ではおまへん。
注意深い観察と、定期的な検査はず~と続きます。
子供を産めへん女として、生き方の模索が始まりました。
意図的に、彼のアパートへ通うことを減らしました。
そのうち。会うことさえ、拒むようになりました。
彼と、距離をつくることにしました。
子供を産める体でなくなってしもたことが、原因です。
彼と別れる決心を固めました。
プロポーズを何度も断り、京都以外で生きることを決めました。
そないな時期に思いだしたのが、インド旅行で出会った柔らかい絹と、
黄八丈の暖かい世界どす。
第2の出発点として、ウチは群馬を選びました。
座ぐり糸作家として、生きることを選択したんどす」
千尋が、ふぅ~と長い息を吐く。
2人の間に、沈黙が訪れる。
温風の吹き出し音だけが、車内に響いていく。
かすかに開いている助手席の窓から、冷たい夜気が流れ込んでくる。
風が吹いた。冷気がまとめて車の中へ流れ込んできた。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話 作家名:落合順平