からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話
からっ風と、繭の郷の子守唄(110)
「DV亭主との離別を決めた美和子は、貞園のマンションにかくまわれる」
山登りを無事に終えた康平と千尋は、早めの夕食を済ませる。
2人が今朝落ち合った場所。上信越高速道の松井田妙義の出口ランプで別れる。
千尋は安中市のアトリエに帰っていく。
康平はふたたび高速に乗り、前橋インターを目指して走り出だす。
別れ際。車から降りようとする康平を千尋が呼び止める。
「タッチじゃおまへんが、『敬遠』もいっぺんすると癖になります。
キスもいっぺんすると、癖になってしまうようどす。
今日は一日おおきに。気をつけて帰って下さい。
今度はあたしが前橋へ行きますから」
『見送られるのは好きじゃおまへんので』と、千尋が車を発進させる。
貞園からの電話を覚えていたようだ。
先に姿を消していったのには、そんな気配がある。
テールランプが国道へ消えていくのを見届けてから、康平が携帯を取り出す。
着信記録から、貞園を呼び出す。
呼び出しのコールが鳴り続ける。しかし貞園は、なかなか電話に出ない。
もう一度かけ直そうと思った瞬間。『お待ちどうさま』と、
いつものすました声で、貞園が電話に出た。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話 作家名:落合順平