からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話
千尋は、大きめのパープルのリュックサックを背負っている。
イエローとパープルのウィンドウブレカーを着用し、
『お尻の形が丸見えになるのは失礼にあたるから』と、あえて大きめの
ベージュのパンツをはいてきた。
足元には、同系色の靴下を合わせている。
お洒落な山ガールへ変身してきた千尋だが、岩場の下で長い時間にわたり
立ち往生している。
「表妙義には、数多くの難所がある。
白雲山の奥の院の鎖場と、金洞山の鷹戻しの頭周辺にある鎖場は、
難易度が高い。中級者や上級者向けと呼ばれています。
千尋さんのために用意したのですが、すこし難度が高すぎたようです。
もう少し下から登ってくる石門巡りのコースは、初めての登山でも楽勝です。
多くの登山者に親しまれているし、そちらが一般向けのルートです。
中之嶽から見ることができる、奇岩の景色は素晴らしいですよ。
トンネル状になった第1石門から、第4石門まで行くことができます。
大砲岩やロウソク岩、ユルギ岩や岩筆頭岩、虚無僧岩なども
見ることができます。
どうします?今からでも、そちらへ引き返すことは可能ですが」
「そこに、山があるから登ります、とどなたかが言うていました。
いっぺんたてた目標は、なにがあってもクリアします。
それがあたしの流儀どす。
でもな。滑りそうになったら、さりげなくフォローをして下さいな。
お尻でも胸でも、許可いたしはりますから・・・
お願い、康平くん。初心者のわたしを見捨てへんでな」
「よくわかりました。
山の神聖な空気を乱さない程度に、軽くソフトに支えます。
じゃあ行きますか。
この上で、いままで見たことのない妙義山ならではの絶景が、
千尋さんを待っています。
険しい岩場はそれを登りきった時、初めてご褒美として、
それを私たちに見せてくれます。
それこそが大勢の人を惹きつける、妙義山登山の最大の魅力です」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話 作家名:落合順平