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からっ風と、繭の郷の子守唄 105話~110話

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 『貞ちゃんらしいわ』と、千尋が笑う。
奇岩で知られる妙義の登山道は本殿の裏手からはじまる。
針葉樹林を過ぎる、と増水している沢へ出る。
数日前にやって来た台風の影響で、沢の水はいまも茶色に濁っている。
『大の字』と書かれた看板に沿って、沢を横切る。
 
 行く先をしめす矢印やマーキングは、登山道のあちこちにある。
細かく登場するマーキングは、初めての登山者に進む方向を
明瞭に示してくれる。
道案内がいきとどいているのには、訳がある。
妙義山は、1000mそこそこの岩山。
しかし。山の低さにもかかわらず、遭難事故が日本一多い山だと言われている。
そのため。登山道の整備と、マーキングの徹底が進んできた。
ガレた場所や岩場では、岩や石に目印のマーキングが施されている。

 妙義は車で登山口まで来られるため、修学旅行や中高年たちの
ハイキングに、最適と言われている。
しかし。奇岩でおおわれた急峻な山肌には、予測不能の危険性が潜んでいる。
4人の中学生が、登山道をあまり前進しないうち、山中へ
迷い込んだこともある。
翌日。無事、自力で下山してきたが、こういうケースは多々発生している。
それだけ山道が複雑なのだ。
丁寧なマーキングが無いと、迷い込んでしまいそうな別れ道や岩場が、
妙義山では、随所で出現する。


 「ここは、小学生たちが遠足でやってくると聞いています。
 タカをくくっておりましたが、百聞は一見にしかずですなぁ。
 ちびっと歩いただけで、初心者には難所どす。
 わたしの単なる運動不足でしょうか・・・・
 いやどすねぇ。運動不足の若年寄りは、うふふ」

 岩場の下で千尋が、荒い息を整えている。
妙義では定番といえる鎖を使っての岩登りが、目の前にあらわれた。
最初の岩場は、鎖を使用しなくても登って行ける。
しかし、はじめての山登りに無理は禁物だ。
千尋が鎖をつかみ、頂点までの長さを下から何度も確認をしている。

 「結構、距離はありますね・・・・
 行けるのかしら。にわか山ガールのあたしに・・・」

 「お尻を押しましょうか。それとも上から抱き上げましょうか。
 どちらでも、お好きなほうでお手伝いします。
 筋金入りの山男のおいらが」

 「どちらにもちびっとばかり、卑猥な表現と下心が含まれています。
 康平くん。唇はあの時にあげましたが、それ以上はいまだに封印中どす。
 勇気を出して登ろうと思うのどすが、この高さはあたしの
 想定を超えています。
 困りましたな。こんな岩場が連続すると、ほんまに。
 そのたびに手伝ってもらったら、そのうちにあたしの身体が、
 根こそぎ奪われてしまいそうどすな。うふふ」