映画 戦国生徒会
第3章: クランク・イン
メインキャストが決まると、脇役も徐々に決まりはじめる。文化系クラブのリーダー役は、津田の思い付きで特異なキャラが採用された。
「登山部の上坊君がいいと思うんだけど、映画の中では料理研究部ということにして」
なぜなら、上坊幸一はこの高校きってのオネエ系だったので、みんなその配役のインパクトにニヤついた。
(中川豊) 「龍子役が男勝りな役どころに対して、ライバルがオネエというのは面白いかもな」
(近藤彰正) 「名前も虎吉とかどうだ?」
(野崎賢斗) 「龍虎対決か!」
「わっはっはっはっはははは・・・」
次の日、嫌がる上坊が同じクラスの杉田時生(小道具担当)に拉致されて、外階段下倉庫にやって来た。
「出るのはいいけど、料理研究部は嫌なの」
と言ったので、ギター部という設定に変更された。そして彼は、虎柄のギターを背負って出演することになった。
映画がクランク・インしたのは、6月になってからだった。高校の制服が夏服に変わるのを待ってから撮影は開始された。カットによって制服が違っていては話にならないからだ。それも中川の計画性の素晴らしさだ。
それまでの間は、シナリオの修正に時間が掛けられていた。複数台使用するカメラの色調の統一方法や、操作の練習、効果的な照明の位置などを熟考して準備が進められてきた。カチンコやレフ板といった撮影道具も、杉田によって自作された。実験的に撮影されたストップモーションアニメや、逆再生動画は、スタッフの撮影技術アップのためだったが、チームワークと得意分野の担当割りに役立った。
そのうちに外階段下倉庫には、ベニヤ板の床が敷かれ、コタツの敷物が持ち込まれて、ちゃぶ台や、電気ポットまで置かれていて、スタッフの秘密の溜まり場となっていった。新しくスタッフに加わった、博之と同じクラスの福田悠人(照明係)と山崎凜花(衣装係)は付き合っていたので、ここで同棲したらどうかと、みんなにからかわれた。
ここには千鶴もよく顔を出している。しかし、博之は千鶴を意識するあまり、話しかけることはほとんど出来ないでいた。
「毎日忙しいみたいだけど、撮影面白い?」
電話で香織が聞いた。
「うん。始まったばかりでまだ、緊張して自然に台詞が言えないんだけど、声はアフレコするみたいだから大丈夫なんだ」
「本格的なのね」
「手間が掛かるけど、撮影中は他のクラブの掛け声とかも聞こえてくるんで、そうするしかないってさ」
「いいな。なんか青春って感じで」
「お前のほうこそ、テニスで青春してんだろうが。アタック・ナンバーワーンとか言って」
「あはは。古くて分からなーい。しかもそれバレーじゃない?」
博之は毎日、楽しそうな撮影風景の写真を数枚、LINEで送った。