映画 戦国生徒会
これでスタッフの心配が一つ消えた。残る課題はヒロイン役の女子をどうするかだった。博之が獲物(龍子役のキャスト)を得てきたことで、みんなのやる気が増した。
(野崎賢斗) 「こうなったら学年一の美人から順に声を掛けていこう」
(中川豊) 「そうだ。いっぱい声を掛ければ何とかなるだろう」
無鉄砲な計画だが、高校生のノリはこんなものだ。一番に名前が挙がったのは、『佐藤千鶴』だった。
(木田博之) 「でも、誰が声掛けるんだよ。俺、しゃべったこともないぞ」
千鶴は確かに美少女だ。博之も一年の時からその認識はあったが、8組もある学年でクラスが離れていると、まったく面識はなかった。唯一交流があったのは、演出を担当する近藤彰正だった。
(野崎賢斗) 「近ちゃん。佐藤と同じクラスだったよな。行けるか?」
(近藤彰正) 「ああ。声を掛けるくらいなら出来るけど、あまり期待すんなよな」
(中川豊) 「よし。任せたぞ。絶対ゲットして来い」
それからスタッフの男子達は、好みの女子の名前を挙げて、声をかける順番とスカウト当番を決めた。
それから3日後、映画製作準備のためスタッフ達は、与えられた外階段下の倉庫で撮影用の小道具を作っていると、そこに奇跡がやって来た。
「おまたせ〜」
近藤がご機嫌で入ってきて、その後ろには佐藤千鶴が立っている。
「佐藤、映画出たいって」
一同顔を見合わせた。博之は自分の頬が高潮するのを感じた。ヒロイン。つまり自分の相手役。この美少女と恋に落ちる設定だ。
全員で大歓迎ムードになり、千鶴は胴上げでもされそうな勢いで、倉庫に招き入れられた。
その日の帰り、中川は興奮していた。最近は博之と自転車で一緒に下校することが多くなっていたのだが、先に家に辿り着いた中川は、博之に、
「お前が羨ましい」
と言って笑った。