映画 戦国生徒会
「俺もさ、さっきのことが気になって、寝られなかったんだ」
「・・・キッド君てすごい」
「何が?」
「見て」
千鶴は夜空を見上げた。博之も見上げてみると、そこには満天の星々が輝いていた。
ここは周囲を高い山々に囲まれた奥飛騨の旅館であり、街の明かりなど届く場所ではなかった。しかもこの8月3日の未明は新月で、天の川が手に届きそうなところに、とても大きく見えた。
「すげえ」
「すごいのはキッド君よ。私、今、この星空をキッド君と見たいなって考えてたの」
「俺と?」
「私たち付き合っちゃってもいいよね?」
暫くの沈黙。
「うん。付き合おうよ。こうなるように導かれた気がする」
博之は千鶴にキスをした。
「いきなり、はずかしい」
と嬉しそうに千鶴は言った。そして博之は、目の前にいる学年一の美少女を自分のものにしたことが嬉しくなり、笑いながら抱きしめた。・・・・・・
博之と千鶴がプールではしゃいでいる時、香織はテニスの夏季大会で市のトーナメント3回戦に出場していた。この大会は3年生の引退試合でもある。1回戦から連日、延べ120人ほどが出場していて、世代交代の場でもあった。
(ヒロ君の応援がなくったって、一人でもやれるもん!)
香織は、この試合を博之に応援に来てもらうことをイメージしながら、練習に励んできた。しかし、博之はここにはいない。
(絶対にシングルでベスト16に入って、次期レギュラーになるんだから)
いつも以上に気合が入っていた。
博之と別れてからは、ほとんど練習に身が入っていなかった。そのことはチームメイトもコーチも知っていたが、今まで通りに接してくれたことに、感謝の気持ちを返すためにも、いい結果を残そうと頑張った。
この日の夕方、会場のテニスコート脇で、負けて涙ながらに引退する3年生から、次期キャプテンの命を受けたのは香織だった。なぜならこの日、2年生ながらベスト16入りを果たし、レギュラーの座を獲得していたのだから。
嬉し涙か、3年生の引退を惜しむ涙なのか、博之を思う涙だったのか。
(やっぱりヒロ君に見ていてほしかったな)
と、泣きながら香織は考えていた。