映画 戦国生徒会
第16章: それぞれの夏
「ヒィーーハァー!」
大型レジャー施設に隣接する屋外プールのスライダーから滑り落ちる二人乗りフロートで、博之が大声を上げている。もう一人その前に乗っているのは、白いビキニの千鶴だった。二人はもうこっそり付き合っていて、博之は香織と来るはずだったプールに千鶴と来ている。乗鞍高原ロケから、二人は急激に接近し、恋人同士となった。あの長台詞の練習も、二人でしっかりしていたのだった。
でも、博之には香織に気まずいという思いもあって、千鶴も近藤に申し訳ないと思っている。だから二人は最初の思い付き通り、内緒で付き合い始めたのだった。しかし内緒にしておくのには期限を設けた。それは、映画が完成するまでというものだ。
・・・・・・あのロケ合宿の花火の後、博之は千鶴との交際が現実味を帯びたことに戸惑っていた。旅館の部屋に戻ってからも落ち着かず、翌日の早朝登山に備え、早めの就寝もなかなか寝付けなかった。12時を過ぎても、千鶴のことばかり考えていたのだが、(佐藤さん(千鶴)も眠れないでいるのかな?)などと考え、1階に行けば、彼女に会えるかも知れないと思った。そして、いびきの響く中、こっそりと部屋を抜け出したのだ。
階段を降りると、まだ明るいフロアには誰もいない。浴場に続く廊下の奥の娯楽室で、男の人が話しているのが見え、反対の玄関の方に向かって歩いた。玄関ロビーには誰もいなかったので、そのまま、置いてあったサンダルで表に出てみた。博之には何処に行くというつもりもなかったが、玄関の明かりが照らす庭に趣は感じられず、先の川の橋まで歩いてみようと思った。
カエルの鳴き声が聞こえる道を30メートルも行けば、右手に橋がある。橋のたもとの古い電灯の周りに、カミキリムシが飛んでいた。それに気を取られて、その先の橋を見ていなかったので、
「キッド君?」
という声に驚いた。薄暗い橋の上に立っていたのは千鶴だった。
「佐藤さん? 一人でいるの?」
「ぇえ? どうして来たの?」
「いや。なんでだろ。なんとなく会えるような気がして」
黙っている千鶴に博之が近付いた。
「佐藤さんこそ、何してるの?」
「なんだか寝られなくって」