映画 戦国生徒会
第4章: 熱中し過ぎ?
龍子が登場するシーンの撮影の日。川崎恵美莉が何も知らずにやって来た。台本は予め見せていたが、この役とは伝えていない。
「え? こんなに台詞あるの?」
「うん。ちょっと多いかもな」
気まずく博之はごまかしたが、恵美莉は、
「キッド、だましたな」
とすぐに気が付いた。
(『キッド』というのは、木田博之がまだ川崎恵美莉よりチビだった中学一年の時、恵美莉が付けたあだ名である。)
恵美莉は唇を尖らせて睨んだが、博之はその唇にわざと自分の唇を突き出すと、恵美莉はプイッと横を向いてはにかんだ。
「この髪の毛。イメージがバッチリなんだよな」
付き合いが長く仲も良かったので、この期に及んで、恵美莉がこの役を断れない性格だということぐらいお見通しである。
この一部始終を、千鶴も笑って見ていた。
取り合えず恵美莉には、倉庫内で衣装のジャージに着替えさせた。ジャージには『根性』『気合』の文字が、衣装係の山崎凜花によってアップリケされている。はっきり言って恥ずかしい衣装だ。
しかし、暫くして倉庫のドアが開き、長い髪を側頭部でポニーテールのように結び、竹刀を担ぎ、ふて腐れたような表情で現れたので、みんなが歓声を上げた。
「おおおー!」
正にイメージ通りのはまり役だった。
虎吉役の上坊は、撮影で公衆電話BOXの屋根の上に、ギターを手に立たされたが、嫌がりながらもスルスルと上ってしまった。流石に登山部員といったところか。しかし、撮られることが癖になったのか、2度目の撮影からは、顔にオネエメイクまでするようになった。
演劇部から借りたメイク用のドウランは、ねっとりしていて顔に塗るのが難しかしい。大ケガの役のメイクに使用してみたが、まるで安いゾンビのようになってしまい、まったく話にならない、水性絵の具でも塗ってみたが、すぐに乾いてポロポロとれて、手間ばかりかかる。
そこへ、照明係の福田が新しい女子を連れてきた。その椋ノ木優愛は美術部で、油絵が得意だった。油絵の具で顔に大ケガを描いてもらうと、救急車を呼ぶ必要があるのではないかと思われるほどの見事な出来栄えになった。