焼肉ハグクラブ
笹野葉 …分かってんのよ、そんなこと。
小毬 それも知ってた。でも、口で言わないとモヤモヤしてさ。
笹野葉 ばかやろうだなぁ。
小毬 ばかやろうだよ。
笹野葉 …。
小毬 …。
笹野葉 小毬。
小毬 ん?
笹野葉 ありがとな。
小毬 うん。
【シーン④】
大学の廊下。押花、笹野葉、小毬、八女板付き。押花は看板を持っている。
笹野葉、小毬、八女は、仮面をつけている。四人は、立ち話をしている。
小毬 なんっていうかぁ、彼氏がぁ、まじぃ、お子ちゃまって感じなんだよねぇ。
八女 えー、榎本くん、大人っぽいじゃんよぉ。
小毬 大人っぽいって言うかぁ、奥手って言うかぁ。
笹野葉 えー、意外って言うかぁ、榎本くんかっこいいのにがっかりって言うかぁ。
押花 彼、何って言うかぁ、凄くセクシーなのにぃ。
八・笹 ねー。
小毬 でもでもぉ、それはぁ、あたしを大切にしてくれてるからって言うかぁ、お子ちゃまだけどぉ、かっこいいのはかっこいいって言うかぁ、なんていうかぁ…。
笹野葉 好きなんだよね?
小毬 …。
八・押 きぃやあああああああああああああああああああああああああああ!
小毬 ええい、うるさいうるさい!
笹野葉 もげろ。
小毬 もげないよ!
八女 生えろ。
小毬 なにが!?
押花 あ、ごめん、ちょっとトイレ。
笹・八 ほーい。
☆押花ハケかけるが、途中で立ち止まる。黙って三人を見つめる。
笹・八 …。
小毬 何って言うかぁ、押花って、最近うざくない?
八女 そう? いいやつじゃん。あたし好きだけど。
小毬 いやあ、いい奴なのはいい奴なのよ。でも最近、妙に熱いって言うかぁ。
笹野葉 確かに、焼肉ハグの勧誘とかはうざいよね。
八女 ああ、まあ、そういうのは友達にしたらだめだよね。
小毬 なんか、友情試されてるっていうかぁ、逆に友情壊れるわぁ。
笹野葉 わかる(笑)。
小毬 まじうざいわ。
八女 そうねぇ。
笹野葉 あれって人数は集まってんのぉ?
八女 苦労してるみたい。
小毬 サークルなんて無理でしょぉ。
笹野葉 新しいこと始めるって、そんな簡単じゃないってぇの。
小毬 独りで頑張ってどうすんのってぇ。
八女 世の中甘くないよね。
笹野葉 ま、手伝ったりとかしないけど、興味ないし。
小毬 ひどっ(笑)。
笹野葉 やらないでしょ?
小毬 うん(笑)。
笹野葉 ほらー、もー(笑)。
小毬 だいたい焼肉ハグってなんなの(笑)。
笹野葉 たしかに意味不明なんですけど(笑)。
八女 でも、ハグはしたいかも。
小毬 やだぁ、やっちゃんのえっちー。
八女 おっちんはいいじゃん、榎本くんがいるんだしぃ。
小毬 えっ(赤面)。
笹野葉 そうよねぇ、あたしも色気ない生活してるからなぁ。
笹・八 もぅ、合コンしよ。
☆三人、きゃっきゃうふふしている。押花、呆然と立ち尽くす。
押花 …、はは、ははははははは。
☆押花、いきなり持っていた看板を叩き壊す。
押花 ああ、いやだ。いやだいやだいやだ。
☆笹野葉、仮面をとる。八女と小毬、笑いながらハケ。
押花 いやだいやだいやだいやだ。
☆押花、泣き出しそうになる。
押花 …。
笹野葉 …。
押花 誰も協力してくれないし、誰も分かってくれない。
笹野葉 …。
押花 …無駄じゃん。
笹野葉 そうか。
押花 …。
笹野葉 それでいいのか。
押花 いい。
笹野葉 …。
押花 …。
笹野葉 …正直な話な、がっかりだわ。
押花 …。
笹野葉 お前に期待してたんだな。
押花 …。
笹野葉 マジだと思ってた。
押花 …。
笹野葉 すまんな、勝手に。
押花 ……意味わかんないんだけど、ガチでマジだったわ。
笹野葉 いやいや、そりゃないだろ。
押花 は? さっきから、喧嘩売ってんの?
笹野葉 そういうわけじゃねぇよ。
押花 そうでしょ。いちいち癇に障る煽り方してんなよ。いま、虫のいどころが悪いの。努力してもどうにもならないことだって世の中にはあんでしょ。
笹野葉 ないだろ。
押花 は、うざ。
笹野葉 努力は報われるって言うだろ。結果が出ない様なちんけな努力なんてのは、そもそも努力にすらなってねぇのよ。結果が伴わない努力は、努力の内に入らないわ。
押花 結果論じゃん。
笹野葉 世の中、それだろ?
押花 割り切れないものもあるでしょ!
笹野葉 気持ちとか?
押花 そうだよ!
笹野葉 お前はそこが捻じ曲がってるから努力すらできねぇんだよ。
押花 なに? 言いたいことがあるなら、素直に言ってよ!
笹野葉 お前、焼肉ハグが好きなわけじゃないだろ?
押花 …。
笹野葉 サークルを作りたい別の理由があんだろ?
押花 は、好きだし。何言ってんの?
笹野葉 どこが?
押花 どこがって、…みんなでやって楽しいし、みんなと仲良くなれるし、それに…。
笹野葉 それに?
押花 …。
笹野葉 …、興味はねぇけど、焼肉ハグについてちょっと調べたよ。なんでも焼肉をしつつ見ず知らずの人とハグをして交流を深めるもので、百年の戦争をも終結させてしまうものらしいな。
押花 焼肉ハグは平和の象徴だもん。
笹野葉 大切なのは、見ず知らずの人とハグをして交流を深めるってことさ。即興性や周りを巻き込む大胆さが要るが、逆に言えば焼肉屋に一人で行って周りを巻き込んじまえば事足りるってことだろう? わざわざ、最初から人数を募る必要はないわけだ。お前ひとりで、焼肉ハグクラブは成り立つじゃないか。
押花 …。
笹野葉 お前、焼肉ハグが好きなわけじゃないんだろ。
押花 …好きだよ。
笹野葉 違うだろ。
押花 大切だよ。
笹野葉 嘘なんてつくなよ。
押花 本当だもん!
笹野葉 …。
押花 両親が上手くいかなくなった時期、家に居づらくて、こっそり焼肉屋さんに入り浸ってたことがあるの。焼肉ハグが盛んに行われていたお店で、みんな仲が良かった。こんな私も焼肉ハグに迎えてくれた。本当に、心の休まる場所だったの。でも、お店の経営が上手くいかなくて無くなっちゃった。あんな、焼肉ハグがもう一度したいの!
笹野葉 それは、お前の心地いい居場所を探してるだけだろ。焼肉ハグなんてこじつけだ。大人しく、既存のサークルにでも入ってろよ。
押花 …っ!
笹野葉 マジでやりたいなら、マジでやりたいならなあ、もういっそ居場所作りだって何だっていいんだよ。他の大義名分を作るな。やりたいことに向き合えよ。ちゃんと、本当にやりたいことを…。
押花 …。
笹野葉 頼むよ。
押花 …。
笹野葉 …。
押花 …。
笹野葉 すまん。
押花 …。
☆笹野葉ハケ。押花、何故か涙を流す。
【シーン⑤】
空き教室。笹野葉板付き。小毬イリ。
小毬 笹野葉、起きなよ笹野葉。
笹野葉 んぁ…。
小毬 もう、人にお昼買いに行かせといて寝るなんて酷いよ。
笹野葉 ふぇあ、すまん。
小毬 …、ほい。
☆小毬、ハンカチを差し出す。
笹野葉 ん、ああ。
☆笹野葉、ハンカチを受け取って目元を拭く。
小毬 夢でも見たの?
笹野葉 …夢か、夢ならな。
小毬 笹野葉?