焼肉ハグクラブ
小毬 …。
笹野葉 そうか?
小毬 うん。
笹野葉 ふん。
小毬 よかったよ。
笹野葉 何がだよ。
小毬 ささ、食事食事!
笹野葉 特濃親父食うか?
小毬 うん、ふんどしもどうぞ!
笹野葉 おう。
【シーン③】
大学構内、押花板付き。何やら緊張した面持ち。近くには看板が置いてある。
☆押花、意を決して携帯電話で焼肉店へ電話をかける。
押花 すみません、押花といいますが、予約しようと思ってお電話しました。…、はい、えっと、来週の土曜日です。あの、6時半から。……。あ、ああ、えっと、そうですね。十人、前後になると思います。詳しくは、まだ、すみません。ええ、すみません。ありがとうございます、宜しくお願い致します。はーい。
☆押花、電話を切ってため息をつく。
押花 よしっ!
☆押花、マジックで看板に何かを書き加える。
押花 できたっ! 可愛いっ! えっと…。
☆押花、看板を持つ。まわりをきょろきょろ、何やら緊張した面持ち。
押花 焼肉ハグどうですかぁ…。(尻すぼみ)あの、その…、焼肉ハグ…。土曜日に…。ああ、くっそ、落ち着け落ち着け。(小声)
☆押花、大きく深呼吸。
押花 大丈夫、大丈夫。
☆押花、大きく息を吸う。
押花 焼肉ハグどうですかぁ! 来週の土曜日の6時半から! 可愛い女の子ともハグできるよー!
☆八女イリ、仮面をつけている。
押花 あ、すみません! 焼肉ハグとか、興味ありませんか? 焼肉を食べながら、ハグをして交流を深めるんです。
☆八女、手振りで興味ないと伝えてそのままハケ。
押花 あの、ちょっと…! もうっ、むんっ! 焼肉ハグ、焼肉ハグに興味ありませんかー! 美味しいお肉を食べながらハグをしませんかー! あ、すみませーん!
☆押花ハケ。あわせて、小毬と笹野葉イリ。双眼鏡を持っている。
小毬 目標捕捉。一般学生を対象に布教活動を行っています。
笹野葉 被害は?
小毬 甚大ではありません。
笹野葉 学生はその手の勧誘には慣れているからな。
小毬 接触しますか?
笹野葉 出方を見よう。合図を待て。
小毬 了解。ОMRからSSNHへ、出方を見る。合図を待て。
笹野葉 こちらSSNH、了解。
小毬 ねえ。
笹野葉 何だ?
小毬 このノリ必要なの?
笹野葉 お前、このノリにノリノリじゃないか。
小毬 そうなんだよー、嫌いじゃないんだー。
笹野葉 知ってる。
小毬 それにしても、なかなか頑張っているじゃないか。
笹野葉 こんなアナログかつ、非効率なやり方でか?
小毬 地道で好きだけどね。
笹野葉 客がいくら集まるかな。
小毬 心配してるの?
笹野葉 嘲笑ってんのよ。はっはっはっはっはっはっはっはっ。(某ムスカ大佐風)
小毬 でも、まあ、本人の気持ちは一番伝わるよね。
笹野葉 その分、現実も見るけどな。
小毬 え、それって…。
笹野葉 シッ、動いた!
小毬 え、あ、目標の移動を確認。推定時速4.4㎞で接近中。
笹野葉 来た来た来た来た!
小毬 このままでは接触します!
笹野葉 全軍退避、退避ー!
☆小毬と笹野葉、ベンチ裏に隠れる。押花イリ。
笹野葉 我が軍の被害状況の報告を!
小毬 了解。全軍、番号!
笹野葉 1!
小毬 2! 全軍無事です! 損傷ありません!
笹野葉 報告御苦労。よし、もうひと踏ん張りだ。
小毬 目標捕捉。相も変わらず、一般学生を対象に布教活動を行っています。
笹野葉 くそう、此処からだと、声が聞こえんな。内容が分からん。
小毬 はっ、笹野葉、声が聞こえないだって?
笹野葉 小毬、なんだいきなり。
小毬 いまじねいしょんと観察眼が足らないよ、足らないよ笹野葉!
笹野葉 なんだ、何か策でもあるのか?
小毬 勿論さ。
笹野葉 そりゃなんだ。
小毬 読唇術だよ!
笹野葉 読唇術って、口を読むってアレか。できるのか!
小毬 僕にかかれば簡単さ! いまじねいしょんと観察眼だよ!
笹野葉 いまじねいしょんと観察眼か!
☆八女イリ、仮面をつけている。
小毬 そうだよ!
笹野葉 なるほどなぁ!
小毬 ほら、やってみよう! 僕が押花さんをやるから、笹野葉は仮面つけてる人ね。
笹野葉 仮面って…、おう、つけている。なんだアイツは。変な奴。よし、わかった!
小毬 おほんおほんおほんおほん。
笹野葉 あーあーあーあー。
☆押花が八女を勧誘する。以降、押花と八女の動きに小毬と笹野葉がアフレコする。
小毬 あ、すみません! 焼肉ハグとか、興味ありませんか? 焼肉を食べながら、ハグをして交流を深めるんです!
笹野葉 …。
小毬 すごく、むらむらしますよ!
笹野葉 …。
小毬 …、何か言ったらどうなんですか!
笹野葉 ワタクシ、悟っているもので…。
小毬 悟り?
笹野葉 ええ、小五ロリと書いて、悟りと読むんです。漢字で書いてみると、…ほら!
小毬 ほんとだぁ。(ほんわか)
笹野葉 ね、面白いでしょう?
小毬 すみません、ロリコンさんだとは知らずに。そんなにあぶないお人だったとは…。
笹野葉 いえいえ、危ないだなんてそんな。確かにワタクシは悟っています。でもそれは、今に始まったことではありません。小学生の頃から小学生は好きですし、今でも好きです。…ね?
小毬 ん?(ニコニコとはぐらかし)
笹野葉 恋愛対象が変わっていないだけなのです。…ねー?
小毬 んー?(ニコニコとはぐらかし)
笹野葉 それに…。
小毬 ばいばーい。(強制終了)
笹野葉 ばいばーい。
☆八女ハケ。アフレコ終わり。
小毬 …。
笹野葉 こんな会話をしていたのかっ!
小毬 …。
笹野葉 …。
小毬 そうだよ。
笹野葉 そうなのか!
小毬 内容が無いようだったね。
笹野葉 ん?
小毬 何でもない。
笹野葉 そうか。
☆押花、人を見つけて勧誘しに走ってハケ。小毬と笹野葉、押花を目で追う。
小毬 一生懸命じゃないか。
笹野葉 まあ、頑張ってはいるな。
小毬 どうしたのさ、さっきからちょくちょく引っかかってさ。
笹野葉 ああ、すまん。
小毬 で?
笹野葉 このまま上手くはいかないさ。
小毬 どゆこと?
笹野葉 焦るんだよなぁ、簡単に動かない現実見て。
小毬 なるほどね。
笹野葉 まあ、そうなることは予想済み。あいつが、マジで焼肉ハグとやらをやりたいっていうんなら大丈夫だろ。それこそ、本気で一生懸命ならな。
小毬 …笹野葉って、本当に趣味悪いよね。
笹野葉 褒めるなよ。
小毬 褒めてないよ。
笹野葉 照れるなぁ。
小毬 何この人。
笹野葉 褒めてないのっ!?
小毬 遅いよっ! でも、まあ、笹野葉が少しでも、押花さんを気にしててくれたなら良かったよ。
笹野葉 …。
小毬 …。(何となく漂う肯定の雰囲気)
笹野葉 いや、別に気にしてるわけじゃないからな。(マジトーン)
小毬 はいはい。
笹野葉 ホントだからな。
小毬 はいはい。…、実は、押花さんに笹野葉を薦めたのはぼくなんだよ。
笹野葉 …。
小毬 劇団が解散してから、笹野葉元気なかったから…。押花さんの話を聞いてつい。ごめんね、黙ってて。