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鳥籠―Toriko―

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 部屋を借りたらミュネを閉じ込めて、仕事を探そう。短期間で出来る仕事。流れ者でも出来る仕事はないだろうか。真っ当な仕事ではないのは確かだ。それではパブにでも行って、そう言う話を持ち出しそうな者に会うしかないだろう。その間、ミュネの存在だけは隠し通さなければならない。ミュネは弱点にもなり得るのだ。フェアに仕事をこなすまで、ミュネの事は知られてはならない。幸い、此処は大きな町だ。旅人だからと言って、目立つようなことはない。カルフェが来なくても、此処は旅人だらけなのだ。いちいち旅人の顔を覚えているような住民じゃない。
 大丈夫だ。仕事はうまくいく。だがせめて、自分の理念にあった仕事を探すべきだ。パブで見つかるだろうか。今までは、パブに居れば対外何らかの仕事が転がっていた。掘りだせる瞬間が転がっていたのだ。仕事を探している者、労働者を捜している者は、人の集まるパブに顔を出す事が多かった。
 この町でも、そうだといいのだが。
 ふと、ミュネがカルフェの手を引っ張った。
「カルフェ、ミュネね、お部屋着いたら散歩するよ」
 やはり、ミュネ本人が希望したように森の木の雨露にでも置いてくるべきだっただろうか。否、やはりそんな事出来ない。下手すれば金を稼いで帰っても、待っているのはミュネの躯だけという事態もあり得る。
「ミュネ、もう遅いから今日は寝よう、な?」
 カルフェが穏やかに嗜めると、ミュネは瞬きをした。
 その時、グレハの声がした。
「おおい、右曲がるぜ! 早く来ないと迷っちまうぞ!」

 グレハに案内された宿は悪くない所だったが、隠れ家のような場所にあった。
 受付はやる気のなさそうな娘が一人だけだったが、グレハ曰くあれでも支配人よりは増しらしい。グレハが支配人と仲がいいのも本当らしく、その娘は、支配人は今出かけているがちゃんと伝えておくということをやる気がなさそうに言うと、前金を要求してきた。成程、確かに悪くない値だった。
 その後、涼しいほどすっきりしているロビーを抜け、カルフェは案内された部屋に向かった――荷物を運んでやる、とグレハも付いてきた。
 ミュネは宿に泊まったら町に行く、と一人ではしゃいでいたが、いざ部屋に着き、寝台に座らせると、案の定寝入ってしまった。グレハがその上にそっと掛布を乗せ、窓を開けた。
「大変だねえ、その子のお守も」
「別にいやではないさ」
「まあ、そうだろうね。でなきゃ、其処まで懐かれるこたあないだろうって」
 グレハはくすりと笑い、「それじゃ」と手を振った。そのまま出ていこうとした為、カルフェは呆気にとられた。案内料とか取られたりしないのだろうか。そうじゃなくても、チップぐらいは払った方がいいような気がする。
 だが、カルフェがそう言うと、グレハは苦笑した。
「ああ、いいよ。貰うもんは貰ってるし」
 そう言って、グレハは目を細めた。
「それよりもこの町の事なら、このグレハに聞きな。表から裏まで案内できる所はするぜ。じゃあ、御休みなさい」
「有難う、御休み」
 カルフェが言い終わる前に、グレハはいなくなった。変わった子どもだった。それにしても、得体の知れない子どもにほいほい付いて行ったというのも不思議だった。そうしていいと思えるような何かをグレハは持っていたのだろう。
 得体が知れないといえば、グレハはミュネを何だと思ったのだろうか。ミュネを獣と見抜けない者も少なくない。そういう場合、兄弟に見られない事もないが、多くの者は、ミュネの事を奴隷娘だと思うらしい。高値で売られている高価な奴隷だと。
 カルフェは鼻で息を吐いた。
 きっとグレハは、ミュネの事を妹だと思っただろう。純粋なまま成長した妹だと思ったのだろう。ミュネが雌かは分からないが、弟と見る者はいない事は確かだ。
「カルフェ……」
 寝台の上でミュネが言った。夢を見ている。町を散策する夢でも見ているのだろうか。カルフェは寝台の傍に寄り、ミュネの背をそっと撫でた。ミュネはごろごろと喉を鳴らし、ぐっと丸くなる。心地よい夢でも見ているのだろう、笑っていた。
「ミュネ、御休み」
 カルフェは静かに明かりを消した。

 翌朝、また町に行くと言って聞かないミュネを残して、カルフェは仕事を探しに町へ行くことにした。ミュネはなかなか指示を理解してくれなかったのだが、最終的には意味が分かったらしく、此処に居る事を誓ってくれた。
「じゃあ、カルフェが帰ってきたら、行きたい」
 ミュネは笑顔でそう言った。
 カルフェは溜め息混じりにミュネの頭を撫でた。この頃はあまりにミュネの希望を叶えてあげられていない。そのくらいは叶えてやってもいいだろう。
「ミュネが部屋できちんと待っていたら、町をまた散歩しよう」
「うん」
 ミュネは余程嬉しかったらしく、笑顔で見送ってくれた。カルフェはほっと息を吐いて。部屋の鍵をしっかりと閉める。中からは開けられない部屋だ。ミュネを捕まえてからと言うもの、中からは開けられない部屋しか借りていない。だが、最近はそういう部屋のない宿も多いため、そろそろ対策を変えなければ、とカルフェは思っていた。
 宿を出ようとすると、小太りの男に声を掛けられた。気さくな感じのする、悪くはなさそうな男。彼がゼブブらしい。カルフェは念のため、ミュネの事を彼に伝えた。勿論、純粋な心のまま成長した妹として。
「そういう事なら、ちゃんと見守りますよ」
 ゼブブはそう言って、仕事に戻っていった。
 安心感のある宿だ。それに、ゼブブ自身はミュネを見ていない。万が一、ゼブブが感の鋭い男だとしても、ミュネが獣である事に気付くのはもっと先だろう。今は、安心して仕事を探しに行ける。
 カルフェはそう自分に言い聞かせて、宿を出た。

二.仕事

 仕事はなかなか見つからなかった。見つけるまでは帰らない、と心に決めていたため、気付けばもう日が暮れる頃になっており、カルフェはかなり焦った。いい加減、ミュネも置いて行かれた事で不平と不安を感じているだろう。だが、ここで見つからないのは痛かった。これより先、狩りで得た品を売っただけでは、ミュネを養うのに頼りない。ミュネが大食らいであるとか、贅沢品を好むわけではないのだが、度々身体を壊したり、狩人や人攫いの目を避ける為の服をかったりして、小さな出費がかさむのだ。使いまわしが出来れば理想なのだが、生憎、買った服は、しつこい追っ手のお陰で次から次に破れていってしまう。包んでいるミュネが無事ならば良いに越した事はないが、次から次に気付いてくれる気の聡い者達の多さに、正直うんざりする。無事に町を抜けたと思えば、また新たな敵に出会う。それの繰り返しだ。しかし、それでも、カルフェはミュネを手放すことが出来ないのだ。そして、手放せない限り、仕事は全くないよりもあった方が心強い。無理にしなくても早く町を出ればいいのだが、今のうちに見つけて少しでも金を稼いでいた方が、安心はできる。
 ――結局、此処に頼るしかないか。
作品名:鳥籠―Toriko― 作家名:幼 ゐこみ