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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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それから(それからの続きの続き)

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    それから(12)  霹靂



次の日からも、俺は、何も無かったかの様に、毎日働く。
容子さんも、昨日の出来事など、おくびにも出さず俺に相対してくれた。
ただ、何故か、翌日から、弁当箱が、ご飯とおかず別々になった二段重ねのものに変わっていた。

○○の要請で通った現場も、工事の完成の目途が立ち、俺達は、○○の社長から、新しい仕事を回して貰った。
その現場は、会社からは少し離れた場所。
幹線道路の一部を改修する工事で、○○が、得意とする工事の一つである、橋脚の起つ位置の岩盤掘削。
「ほんまなら(本来なら)、うちが直接やる工事じゃが、段取りは、全部するけぇ、遣って見んか・・?」
と、〇〇の社長自らが、持ち込んだ話らしい。
「そりゃぁ、有り難いです。有り難過ぎるほど大きな仕事ですが、うちの様な会社に出来ますかのう・・」
と、うちの社長は、言う・・
「ABさん、打って出る時にゃ、打って出にゃいけん。堅実に行くんもええが・・、わしが、後に着いとるけん、やってみんさい。」
と、○○の社長(以下、オヤジさんと書く)。
そのオヤジさんの言葉に、容子さんが、後押しをして、社長は、やっと重い腰を上げた。
オヤジさんが帰った後、僅か6人の従業員は、顔を突き合わせて今後の相談をする。
その中で、これまでに十数社を渡り歩いたEさんという従業員が、
「わし、高速道路の橋脚を造る時、○○さんの現場で、仕事をした事がありますで。その頃は、まだあの社長も先頭切って働いとったで。大けな仕事じゃったが、そりゃぁ見事なもんじゃった。
あの技術を覚えたら、うちの会社は、これから仕事が無い言うて頭を抱える事なんか要らんで。」
と。
俺達は、それを聞いて、俄然やる気になった。
「人手が、要るのう・・」
と、社長。みんな、一斉に賢治を見る。
「・・」
と、賢治は、俺を見る。
それを見た俺は、頷く。
「人手は、わしが、なんぼうでも連れて来ます。何人、居ったらええですか?」

結局、社長が、オヤジさんと相談をして、当面は、今の人数で熟し、必要に応じて臨時従業員を・・という当たり前といえば、当たり前の結論を持って帰った。
しかし、賢治は、その時、どうしても誘い込みたい知り合いが居た様で、社長に直談判。
社長は、それを了承した。
途中は、端折るが、俺達は、相当の苦労はしたけれど、工期までにその仕事をやり終えた。
そして、それからも、〇〇から安定して受注する事が出来る様になった。
勿論、それまでの受注ルートも、大切にお付き合いさせて頂いた事は、言うまでもない。

相変わらずの毎日、仕事・楽器の練習・生活に支障を来さない程度の出費で家の改修を繰り返す中、俺は、社長に呼ばれた。
「まあ、座って・・」
と、改まった感じで言う社長。
「どうじゃ、仕事は・・? 大分慣れて来たとみんなが言うとるけど・・」
「はい、お陰様で・・」
「・・・」
「あの・・、用件は・・?」
「ああ、その事じゃが・・、さんばんくん・・、あんた、〇〇で働いて見る気は無いか?」
「えっ・・?」
「いや、実はの・・、○○の社長さんが、『さんばんが欲しい。』と言うてんよ(言われるのです)。・・どうしてですか? いうて訊いたんじゃけど、○○の社長は、何にも言うてんなかった(言われなかった)。・・・どうするか・・? あんた、決めてくれんか・・」
「・・いきなり言われても・・」
「そうじゃろ・・? わしも、そう言うたんじゃけど、・・あの社長、何を考えとるんか・・」
「それで、社長は、どう応えられたんですか?」
「ん? ・・さんばんに訊いてみますと・・」
「そんな事、断れば好いじゃないですか。俺が、行きたくないと言ってると・・。それで、終わりでしょ、この話?」
「うん・・そりゃぁ、まあ、そうじゃが・・」
「(この煮え切らない態度が、会社の経営を悪くさせるんだ!)・・・」
「・・・あんた、行って・・、○○で思う存分働いて見る気は、無いか?」
「・・(一体、何がどうしたというんだ? だが、この社長、どうやら、俺を○○へ行かせるのを、既に了承している・・、そういう気がする。)」
「・・」
「分かりました。俺は、何処で働いても、食べて行ければ問題ありませんから、何時からでも○○で働くと伝えて下さい。」
「そうか? ・・分かった。そしたら、明日にでも、○○の社長に、そう言うとくわ。」
「はい。それじゃぁ、俺、帰ります。」
俺は、そう言って、くそ面白くない社長との会話を打ち切って帰宅した。

家に帰っても、何時もの様な気分になれない。
(一体、何なんだ・・ 俺と容子さんが、上手く行かなかった所為で、彼女の傍に、俺を置きたくないのか・・?)
などと、あれこれ考える・・。
その夜は、ウトウトしては目覚めるという、俺に似つかわしくない一夜だった。

俺は、晴れない気分のまま、それからもAB建設で働く。
『明日にでも、言う。』と話した割には、4日経っても5日経っても、口を閉ざしている社長。
そのまま2週間が、過ぎた。
そして、ある夜遅く、携帯が鳴る。
電話の主は、容子さんだった。
「ごめんね、遅くに・・」
「構いません。まだ起きてますから・・」
「父から聞いた? ・・○○の社長さんの話・・」
「はい、かなり前に聞きました。」
「その事じゃけど・・」
「・・(まったく・・社長、自分で電話しろよ、容子さんなんかに言わせて・・)」
「たぶん、明日、父が、話すと思うけど・・」
「(ああ、彼女の気付きでかけた電話なんだ・・)・・」
「さんばんくん、来月から○○へ・・という話になったらしいんよ・・。本当は、私が電話をしたら、いけんのじゃけど(駄目なのですが)、これまでの事のお礼も言いたいけん、電話したんよ。ごめんなさい・・」
「あ、・・そうですか。別に謝らなくても・・」
「・・あのね、○○の社長さん、さんばんくんの事をずっと見とっちゃった(見ていらっしゃった)らしいんよ。・・それでね、この僅か1年で見違える様になったさんばんくんをね、自分の処で育ててみたいいうてね・・。あの頑固者で、誰にも頭を下げた事の無い社長さんが、父の前で『さんばんを、わしに、くれ。』いうて、頭を下げちゃったらしいんよ。あの社長さんの人を見る目は、確かじゃけん、あんた、あそこで働いたら、絶対に成功する。・・あんた、父から○○へ行けと言われた時、相当怒っとったそうじゃけど・・、父も、あんたにうちで働いて貰いたいけど、あの社長に背いたら、折角安定して来た仕事も減るかも知れんし・・と、色々悩んどったんよ。」
「・・色々ありがとうございます・・。」
「うん・・、まあ、また父が話すと思うけん・・」
「はい、今日の話は、無かった事にしておきます。」
「うん、そうしてね・・ じゃあ・・」
「はい、あっ、色々心配して頂いて・・ それに、今まで、弁当ありがとうございました・・」
「ああ、ええんよ、そんな事。・・それに今生の別れじゃぁないしね・・」

電話を置いて、俺は、考えた。
まるで、もう、○○へ行くと決まった様な形での話だったけれど・・ そして、俺も、一度は、其処に行きますと返事をしたけれど・・、俺の知らない処で、一体どの様な話が行われたのか?