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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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それから(それからの続きの続き)

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    それから(11)  恋の終わり



車は、走る・・ 走り続けるが、まだ着かない・・
「随分遠いんですね。」
「うん、父の実家は、県北の田舎じゃけん・・  其処にね、おばあちゃんが、住んどるんよ、一人で。」
「・・社長のお母さん?」
「うん、そう。もうかなりの歳じゃけど、元気なんよ・・」
「田舎は、空気が、好いから・・ですかね?」
「それもあるけど・・、一人で気を張って生きとるけんね。」
だけど、幾ら元気といっても、先祖代々の田畑の管理は、さすがに無理だなどと言いながら、容子さんは、運転を続ける。
「賢治も連れて来れば好かったかな・・」
「たまの休みじゃけん、賢治君は、女の子と遊ぶんが忙しいじゃろ。」
「・・ですよね。」
「その点、さんばんくんは、暇じゃろ? どうせ楽器を弾いて、家から一歩も出んのじゃろ? じゃけん(だから)父も、あんたに頼んだんじゃと思うよ。ちょっとくらい外の空気を吸わにゃ(吸わなければ)、病気になるかも知れんと思うたんかねぇ。」
「・・もう、殆ど病気ですよ。」
「えっ? 何処か悪いん? 何の病気なん?」
「あ、いや・・別に・・、何処も悪くありません。ちょっと言ってみただけです。」
「な~んじゃ、びっくりさせなさんな(びっくりさせないでください)。もう、うちで働き過ぎて、身体の具合でも悪うなったんかと思うたわ。」
「まあ、俺の場合、これまでの生き方が、尋常ではなくて・・殆ど病気って言うか・・、病気そのものかも知れません。でも、これ以上、悪くはならないでしょうから・・」
「そういう意味なら、上等じゃわ。あんたの異常さは、しっかり見させて貰うとるけん・・。驚かせてくれたお礼に、おばあちゃんの処でしっかりこき使うて上げるけん。」
「はい・・ だけど、食事は、食べさせて貰えるんですよね?」
「当り前じゃろ!」
「それなら、働きます・・」

とりとめのない話をしながらの道中だったが、車は、古いけれど大きな屋敷の庭先に入って止まった。
家の中から、エンジン音を聞き付けて、小柄な老婆が迎えに出た。
「おばあちゃん、久しぶりじゃね。・・元気?」
「うん、元気なで。あんたも元気そうで・・。あ、この人が、手伝いの人か? どうも無理を言うて、すみませんねぇ・・。わたしゃね、この容子の祖母です。折角の休みにねぇ・・他に遣りたい事も有るじゃろうにねぇ・・、まあ宜しゅうお願いします。」
「おばあちゃん、気を使わんでも、ええんよ。どうせ暇なんじゃけん、この人は・・」
「・・・」

俺は、殆ど言葉を発しないうちに、畑で草刈りを始める様に言われた。
草を刈りながら思った、これは、2年や3年放っていた草ではないと・・。
特に、山際の辺りになると、俺の背丈(181cm)を遥かに凌ぐ竹が密集している。だが、朝早く出発したので、昼までに、なんとか主だった場所(道路脇・他家の近く等)の草などを刈り終える事が出来た。
但し、背の高い竹の所為で、3枚持って来た替え刃の2枚を使ってしまった。年月を経た竹は、かなり硬くなっているものだ。
容子さんは、昼食を食べてから・・と言った。だが、俺は、そのまま続けての作業を希望した。お腹が満腹になってからでは、作業効率が悪くなると思ったからだ。
「じゃあ、このまま続けて、3時になったら終わりにしようよ。」
と、彼女は言ったけれど、結局、4時近くまでやって、殆どの畑(田圃)の草を刈り終える。

「まあ、見事なもんじゃのう・・。あっという間に、綺麗になったで。あんた、若いだけあって流石に元気なのう。」
と、婆さんが、言う。
「はい、元気だけが、取り得ですから。」
と応え、勧められるままに風呂で汗を流す。
そして、風呂から出るのを待ち構えていた様に、婆さんは、俺を食卓に座らせ、ビールを出してくれた。
「・・?」
「帰りは、容子が、運転出来るけぇ、遠慮せんと飲んだらええ。」
「あ、頂きます。・・容子さんは?」
と、辺りを眺めながら言う俺。
「今、私の用事で、組合のマートまで行って貰うたんよ。すぐ帰って来るけぇ・・」
「ああ、はい・・」
「・・」
「・・・」
「あんた、生まれは?」
「はい、関東です。」
「そうね? それが、どうしてまた・・」
この地方に来たのかと訊く婆さん。
「まあ、家族も居ませんし、何処に住んでも同じかなと思って・・」
「・・両親(りょうおや)は・・?」
「オヤジは、死んで、お袋は・・、ちょっと事情が有りまして、・・たぶん、何処かで生きて居ると思います。」
「・・そうね? 聞かんでもええ事を聞いた様じゃね。」
「あ、いや・・、もう聞かれる事には、慣れてますから・・」
と、話し始めた時、車の音。
容子さんも帰り、向かい合って座っている俺と婆さん、双方の脇となる位置に腰を降ろした。

あまり身の上話などしたくはなかったが、行き掛かり上、婆さんの問うまま正直に話した。
日頃、一人暮らしの婆さんは、話し相手が出来たこの機会にとばかりに、色々と訊く・・訊く・・
俺も、死んだばあちゃんとか、フィリピンでお世話になった様々な人などの顔が浮かんで来て、労働の後のビールも手伝って・・、気付けば、結構時間が過ぎていた。

「知らんかった・・。さんばんくん、相当な人生を送って来たんじゃね。」
「はい、まあ・・」
「可哀想じゃね・・」
「・・まあ、そうかも知れませんが、案外、面白かったのかも知れません。」
「何? その他人事の様な言い方は・・?」
「いや・・、こんな人生、幾ら願っても、なかなか出来ないと思えば・・それも、ひとつの財産かなと・・」
「・・そうじゃね。そういう風に考えたらええんよね。・・わたしも、そう考える様にするわ。・・勉強になった・・」
「そうですか?」
「うん・・」
「じゃあ、問題です。布団が・・?」
「・・・吹っ飛んだ。」
「ピンポン、です。では、お魚が、驚いた・・」
「・・ギョッ!」
「残念でした、ウォッ! でした。」
「・・あんた等、仲がええのう。・・ええ夫婦に成るで・・」
「おばあちゃん!」
「あっ、ごめん、ごめん・・ 言わん約束じゃったのう・・」
「・・」
「・・・・」
「さんばんさん・・、今日はな、この年寄りが無理を言うて来て貰うたんよ、あんたと容子二人でと言うてな・・。うちの息子(社長)から、容子に好きな人が出来たと聞いて、わたしゃぁ(私は)、嬉しかった。
『そりゃぁええ事じゃ。あんた、早う話を進めんさい。』
と、わたしは、言うたんじゃけど、息子は、どっちかいうと気の弱い性格じゃけぇ、
『わしが言うて、話が、上手く行かんかったら、それこそ容子が悲しむで。』
とか言うてな・・。それからも、ええ話に成ったんかと息子に訊いても、返事は、中途半端なものばっかりじゃし・・、わたしゃ、電話で、
『あんた、ええ人じゃ思うたら、いっそその男と、早う寝てしまいんさい。男というものは、一回寝りゃぁ、ころっと気が向く事も有るで。』
と、容子に思い切って言いもしたけど、
『あの人は、そんな人じゃないんよ。』
と、もう半分諦めとる様な声で、この子(容子さん)は、応えるし・・、それなら、一回、わたしが見ちゃろう(見てやろう)と思うてな・・」