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秋上がりの女

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 大きな窓から、街や山並みを一望できた。夜が明けるが楽しみだ。女は、洗面、浴室などをたしかめながら、大きな窓のあるバスには
「うわあ、すてき」
と男に向かって声を上げた。
 男は女をほめる。
「服、かわいいね」
「クルーズラインなの、コーデイネートしてもらったの」
 サンダル風ながらハイヒール、ミニのワンピース。男が見つめると、女は満足げにポーズをつくる。
「歩いてみて」
 女は室内を行ったり来たりする。ときどき男に視線を投げかける。視線が熱く絡み合う。
「ゆっくり、脱いでみて」 
 男が大きな窓の方を指し示す。カーテンが広げられ、町の灯りがほの明るい。女は男の意図を察して、窓に向かって、半裸体をさらす。赤いひもパン姿でガラス窓を往復する。お尻が二つ、ぷりぷりと動く。男はベッドに腰かけて女を眺めている。
「かわいいお尻やね」
 女は男の言葉に満足げにほほえむ。パンテイを脱ぎ、裸になって、窓に向かう。
「サービスしすぎやわ」
 女は男に不満顔で訴える。軽く反撃しておかないと。しかし、この男は賢い、上手にかわすのだった。
「誰か見てないかな」
と言いながら、男は女の不満を押さえ込むように、うしろから抱きしめながらささやく。
「見せてあげてよ」
 男は両手を上げさせて、女を室外にさらした。娼婦のようで、恥ずかしい思いが心地よい。心地よいと言えば、女は男の指の先がやさしすぎることに気が付いた。両手をつかまれながら、男の皮膚感覚を味わった。皮膚からなじんでいく。この男にはパワーではない何かを感じていた。朝の男とは違っていた。
 そのまま、ベッドに女を誘い込む。男は女のからだをたしかめるようになでる。
「すべすべやね」
 手の指は黒、足の指は赤に塗っている。
「赤と黒か、ふーん」
 男は感心しながら、女の手の指、足の指を一つひとつなぞる。
「そう、きれいでしょ」
 女はこの男の愛撫に好感を抱いた。愛撫をうけるため、十分手入れをしてきたからだ、磨いてきたからだを味わって欲しい、身体に投資してきたのだから、と声に出して言いたくなった。
「体毛、ないね」
「脱毛したのよ」
「いつごろ」
「前の彼がね、そういうのが好きで」
 男は花芯の周囲に手を伸ばす。男のふれ方はあくまで優しい。
「ここもきれいやね、つるつる」
「時間をかけて脱毛したのよ」
「彼のためか」
「ふたまわり離れている人と付き合っている時にね、剃られたの」
「その時は、舐められて気持ちよいのだけど、あとで、ちくちくしてくる」
 男は女のすなおな説明に好感を抱いた。説明を聞きながら、唇を寄せていき花芯の肉をなめまわした。この滑るような感覚はたしかにいいと思った。自分の恋人や妻には、剃毛を切り出せない。遊びは真面目な人間関係には入りがたい。男にはこれだけ見事に脱毛した女は初体験だった。ゆっくり味わいたいと思った。
 男の舌が敏感なところを這うと、女はうめく。
 男は剃毛の由来からはじめて、女の性編歴を聞き出していく。女の過去をなぞるのは好きだったし、たいていの女は嘘かどうかはともかく吐露するものだ。女が過去の男との秘め事をしゃべり、男はそれを聞きながら、二人は盛り上がっていく。男はやさしく愛撫を続けた。
 女は男の指を手に包み込み、その感触を味わった。
「きれいな手ですね、女みたい」
「母親似らしいな」
「薬指がね、中指より長いと、性欲が強いんですって」
「そうなんか、へええ」
 女は男根を握り込む。
「もう硬い、硬くて太い」
 男をほめた。ほめられて、ようやく男は女の身体に自分を重ねていった。
「あたたかい、あたたかいの好き」
 このテンポがいい、もう何度も愛を交わしあった恋人のごとくである。互いの皮膚感覚をなじませあって、その皮膚を通して、感覚を交流させる。男の動きがゆっくりとしていて、ていねいなのだ。女は大事にされていると感じられて、男の応答に感心した。
「なかにね、残ってたよ」
「え、なにが」
「残りかす」
「シャワー、浴びたのですが」
「ひだにくるまれてたからかな」
「ごめんなさい」
「前の男のものとちゃうか、彼氏か、だれなん」
「あなたも良く知っている人かも知れませんよ」
 女がひっかけるように言うと
「想像すると、興奮するね」
「変わった人」
「ほかの男のが入ったかと思うと、燃えるね」
「そうなんですか」
 女はとぼける。女は朝の男の話題をかわそうとしたが、かわしきれなかったのか、ことば責めへの展開に動揺した。もう、男のペースにゆだねても良さそうだと女は判断した。
「ねえ」
と甘える。
 男は女の期待を察して、すぐに姿勢を整えると、男根を花芯の入り口にあてた。女は目をつぶり、息を詰める。男は女の表情をたしかめて、ゆっくり動き出す。
「からみついてくるね」
「いいね」
「いいですか」
 女は男の言葉に、体が深い余韻を残していたことに気が付いた。数時間前に、女の芯に異物が挿入されていたのだ。そう考えると、女は高ぶってくる。
「みんな、いいって言うんやろ」
「みんな、いいって言います、気持ちいいって」
「あいつもか」
「あいつって」
「お昼のやつ」
「ああ、そうねえ」
 二人の関係にいきなり、他人が乱入してくる。他人が二人の性愛のメカニズムに絡んでくる。
 女は男の小気味よい質疑応答を楽しんだ。しかし、体の興奮を抑えきれなかった。男根を挿入されたとたん、全身がそれを受け入れ反応し始めたからだ。朝の余韻がそうさせるのか、それならこれまでも経験してきたことだ。そうではなく、一日で二人目だからか、頭と子宮とが同時に動き出し、頭と子宮とが自問自答しあった。
「人のものが入ったと思うと、興奮する」
「あなたのために柔らかくしといたのよ」
 性欲をあらわす言葉同士がかみ合ってくる。それは恋人たちの心境を二人にもたらす。男が花芯の真ん中あたりまでと入り口との間を抜き差しする間、女はため息、うめき声を漏らし続けた。
 この男のやり方は初めてだ。浅く、深くをくりかえすテクニックはあるが、半ばまでのところだけを使って抜き差ししている。
「あいつとどうや」
「どうって」
「比較して言ってみて」
「わかりません」
 女は男の誘いに乗らなかったから、男がさらに刺激的な言葉をかける。
「穴、掘ってるんや、穴」
「めりめりと入ってきてます」
 女が応答する。
「おとこ、好きか」
「おとこ、好きよ」
「硬いか」
「硬い」
 言葉をかわしながら、肉同士も直接、絡み合う。男根を意識してとらえようとしていたが、今、不意に思考が動き始め、この男の持ち物の良さが分かってきたのだった。さっきより太くて硬くなっているのだ。女には意外な出来事である。もう歳なのに、薬指のテーマは証明されつつある。
 そして、あの皮膚感覚のやさしさ、滑らかさは誰だったのか。別人がうごめいているようだ。
 感覚から認識へ変化し、女はここで、主導権を確保しようと、男を煽ることにした。もう正直、奥まで来てほしくなったからだ。しかしそれをはっきりというわけにはいかない。ここに至っても品よくふるまうのだ、恋人なのだ、と自分に言い聞かせる。
「こすって」
「こすって、気持ちよくなって」
作品名:秋上がりの女 作家名:広小路博