冰(こおり)のエアポート
「じゃ、もしよければ、私のお連れ様ということにしましょうか?」
寿美代は、目の前の男性に頼ろうと思っていた。博之のことは好みのタイプではなかったが、誠実そうなところに安心感を持てる気がした。
彼女がそう言ってくれて、博之は嬉しかったが、恥ずかしい気もして、
「僕も一応ゴールドメンバーなんで、大丈夫と思うんだけど、そうしてもらえたら助かります。あっ、でも僕はホテルを取ってもらいますけど、あぁー、あなたは、」
博之は彼女の名前を聞いていなかったので、ぎこちなく口ごもってしまった。
「あ。私、鈴木寿美代と言います。自己紹介してませんでしたね」
「すみません。木田博之です。ヨロシク」
「よろしくお願いします。なんか面白い感じ」
「鈴木さんは近くにお友達が住んでらっしゃるんですよね。ホテルは必要ないですか?」
「えっ。うーん。ちょっと空港から遠いんですよね。さっきここまで車で送ってもらったばっかりなのに、また呼ぶのは気が引けるし。こういう場合のホテルって、どんな感じなんですか?」
「日本の航空会社なんで、ソコソコいいホテルを取ってくれますよ。宿泊費は向こう持ちですし」
「よかった。お金かからないんですね。こんな目にあって、お金もかかったらいやですよね」
少し恥ずかしそうに笑いながら言った。
二人はエグゼクティブカウンターに並んだ。7〜8人がその前に並んでいたが、エコノミーカウンターは、すでに100人ほどが並んでいる。
グランドスタッフが、今日の便がもうないことの説明と、ホテル宿泊を希望するかを一人ずつ聞いてまわっていた。
博之たちの順番が来て、カウンターで、
「二人分のホテルを取ってください」
と日本語で頼んだ。
「OK.」
そのスタッフは二人のパスポートを確認しながら、翌日のフライトを調べている。そして、たどたどしくなまった日本語で、
「午前の便をキボウされますか?」
博之と寿美代は、うなずきながら顔を見合わせて、
「はい」
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)