冰(こおり)のエアポート
「ミスター・キダは、エコノミーをキボウされますか?」
「はい」
「午前はエコノミーはマンセキになっています」
「じゃ、ビジネスクラスにアップグレードできますか?」
「可能です。少々お待ちください」
(アップグレードポイントを使うしかないかな)
と、博之は考えていた。
「午前の便のビジネスクラスに、お二人分のお席をカクホしました」
「僕の分の追加費用は?」
「いいえ。ゴールドメンバーですので、今回のケースではムリョーでアップグレードできます」
「サンキュー」
「よかったですね。へえ。そんなことできるんだ。サービスしっかりしてますよね」
と、寿美代が感心して言った。
「フラマーホテルをオヨヤクします。一部屋でいいですか?」
「えっ? 別々でお願いします」
「はい。カシコマリました」
博之と寿美代は、苦笑いした。
「お荷物はホテルにトドキます。先にバスで行ってください。バスは8番ノリバです」
二人は出発ロビーから屋外のバス停エリアに向け歩きだした。しかし、そこで博之はとんでもないことに気付いた。
「僕、上着を持ってない。手袋も全部スーツケースに入れて預けてしまったんだ」
「ええー。最悪じゃないですか。マイナスですよ」
寿美代は切れ長な目を大きく見開いて言った。それもそのはず、窓の外に見える駐車場に設置された巨大な温度計の表示は「-12℃」。
博之は、厚手のセーターに、下はジーパン1枚だった。
寿美代は、ダウンジャケットを着ていた。分厚いタイトスカートの下には、やはり厚手のタイツも穿いていた。手提げバッグには、マフラーと手袋、ニット帽も入っている。しかし、人に貸せるようなものは持っていなかった。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)