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飛行機は、まもなくゲートを離れることだろう。博之は、
（飛び発っても、その後は大した機内サービスもないので、日本まで眠っていよう）
と考えていた。
ビールの酔いも残っていて、すぐに眠くなってきた。窮屈な座席で背もたれも倒せず、うつらうつらと浅い夢の中で、ビジネスクラスの女性のことを考えていると、機内アナウンスが聞こえてきた。
「当機の出発時刻は過ぎていますが、出発の最終確認中です。今暫くお待ちください」
（少し遅れるのかな？）

また浅い眠りに付いた。飛行機はゲートを離れ、順調に滑走路へと向かって行くのをなんとなく感じていた。
その途中で完全に眠ってしまい、15分ほどしてまた機内アナウンスで、目を覚ました。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。出発の準備は整っておりますが、管制塔からの離陸の許可を待っております」

博之はまた眠ってしまった。そして今度は、キャビンアテンダントがアメを持って歩いて来た。
「ご迷惑をお掛けしております。アメはいかがですか？｣
博之はその声で目が覚めた。
（どうして乗務員が滑走路手前で立ち上がってるの？ 何分ぐらい眠っていたんだろう）
いやな予感がした。腕時計を確認すると、もう予定の出発時刻から45分も過ぎている。満員の機内は少しざわついていた。ビジネスクラスとの間仕切りにカーテンが引かれ、前方の様子は見えなかったが、エコノミークラスには4名のキャビンアテンダントが、アメを配ってまわっている。

案の定、アメを配り終えて5分後に最悪のアナウンスが流れた。
「計器の故障を知らせるアラームが鳴り、復旧困難なため、機長がこのフライトにキャンセルの判断を下しました」
（やっぱり。アメはご機嫌取りで、管制塔の許可待ちってのも言い訳だったのか）