冰(こおり)のエアポート
コツ、コツ、コツ、コツ・・・
出国ロビーに、スーツケースを引く寿美代のロングブーツのかかとの音が響く。
寿美代は今日のフライトをビジネスクラスで予約していた。心成しか少し胸を張って歩いていた。
航空会社のチェックインカウンターに着いた時、すでに十数名が並んでいたが、上級クラス専用のエグゼクティブカウンターに、並んでいる者はいなかった。寿美代がビジネスクラスに乗るのはこれが初めてだったので、どのカウンターでチェックインすればいいのかよく分からず、エコノミークラスの客の後ろに並んでしまった。
別にそれでも構わないのだが、上級クラスの乗客は常に優先されることを、まだ彼女は知らなかったので仕方がない。
寿美代が一般のチェックインカウンターで、ビジネスクラスの搭乗券と、ラウンジの利用招待券を受け取った頃、すぐ近くのエグゼクティブカウンターでは、博之がエコノミー客としてチェックインしていた。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)