冰(こおり)のエアポート
「早く部屋で、シャワーを浴びたいですね」
「そうですね。先ずはしっかり温まってくださいね」
「そうしましょう」
「私、Wi-Fi接続が分からなかったら、聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろんですよ。そんなことでは、感謝しきれないですけど」
「それから、食事も一緒にしませんか?」
「いいんですか? じゃ、18時頃お部屋に電話します」
個人カードを書き終わると、コンシェルジュから、英語で食事の場所や時間を説明され、カードキーを2枚渡された。
「ユア ルームナンバー イズ 1317。(1317号室です)」
「フーズルーム イジ ジス?(これは誰の部屋ですか?)」
と博之は尋ねた。
「???」
コンシェルジュはキョトンとしてしまった。
「キダズ ルーム? オア スズキズ ルーム?」
と聞き直した。
「ボース オブ ユー、サー。(お二方のお部屋です)」
危うく二人一部屋で案内されそうになり、慌ててもう一部屋を頼んだが、予約自体が間違って、ヒロユキ・キダとスミヨ・スズキで一つの予約になってしまっていた。
実は、空港でのチェックインカウンターで宿泊予約を取ってもらった際に、すでにカップルと間違われており、『別々でお願いします』と言ったのを、ベッドが一つのダブルベッドではなく、二つのツインベッドの部屋希望と勘違いされ、一部屋だけで予約されていたのだ。しかも、この日は空港でのトラブルのために急遽満室になり、もう他に部屋が無いということだった。
「本当に今日は最悪だ」
楽観的な博之も、ついにこの言葉を口にした。
「航空会社に電話して、他のホテルを当たってもらいます」
「でも今からじゃ、いつになるか分からないですよ」
「もう外で待つ必要はなさそうなので・・・」
「もう風邪引いちゃってるじゃないですか」
「いいや大丈夫です。ちょっとハナが出て、震えてるだけですから」
「木田さん! 早く温まらないと本当に倒れてしまいます。私がホテルを変えてもらいます」
「いや、それはだめです」
「私だって、放り出すようなことできません」
「僕はこんなことにも慣れてますから。予約ができてないことなんて、よく・・・」
「じゃ、私一緒でも構いません! 大丈夫です!」
「えっ?」
寿美代はカードキーを握り、コンシェルジュに、
「サンキュー」
と言って、博之の肘を引っ張り、歩き出した。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)