冰(こおり)のエアポート
17:00 エピローグ
エレベーターでは、大勢が乗っていたので、二人は無言だった。1317号室に着くと、寿美代がカードでドアを開けた。そして博之を見て、
「私、平気ですから」
と言って、先に部屋に入って行った。
博之は恐る恐る中に入り、ダウンジャケットを脱ぐ寿美代の後姿を見ながら、ショルダーバッグを、二つ並んだベッドの一つに置いた。
今までの騒々しさが嘘のような、暖かく静かな空間だった。
先ほどまでスッキリしていた博之の思考は、今は完全停止して、眠っているのか起きているのかさえ判らないような感覚だった。
寿美代はバスルームに行き、お湯を出し始めた。
「湯船に溜めながら、シャワーを浴びてください」
と、バスルームで叫ぶのが聞こえた。
「さあ。早くしてください」
博之はどうしていいか分からず、一言も返事できなかった。
寿美代がバスルームから戻ってきて、立ち尽くす博之を見て、一瞬立ち止まった。周囲には湯気の匂いが立ち込めた。
お互い顔を見合わせ、博之が何か言おうとしたタイミングで、寿美代は博之の胸に飛び込んだ。そして、彼のまだ冷たい首筋に、自分の額を強く押し当てて、両手を背中にまわし、
「もう大丈夫。こうした方が気も楽でしょ」
その後すぐ、博之は寿美代の熱い舌を感じた。
完
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)