冰(こおり)のエアポート
実は、寿美代が会いに来ていたのは、恋人ではなく元彼であった。
高校時代の同級生だったその男は、当時から見た目がよく人気があったが、寿美代は控えめで、あまりオシャレでは無いタイプだった。でも、就職してから急に変化し、モテるようになってきていたのだ。二人は社会人になってから同窓会で再開し、連絡を取り合ううちに恋人関係へと発展したという、オーソドックスな恋愛パターンである。
しかし寿美代はその彼の束縛に耐えられず、2年前に別れたのだが、その後もSNSでつながっている。
元々奥手な性格だった寿美代は、彼の見た目の良さに未練があり、別れた後もFacebookのチェックをしていたのだが、彼が大連に単身赴任したというのを、つい2ヵ月前に知って、『寂しいから誰か遊びに来てくださーい』という書き込みに反応してしまったという訳だ。
そして再び連絡を取り合うようになり、こんな異国の地で身近な彼女もいないだろうと思い、わざわざ日本から3泊4日で会いに来て、よりが戻ることを期待していたのだが・・・
「アイツせっかく会いに来たのに、ひどいんですよ。私、仕事を休んで来たのに、自分は仕事があるからって、一日マンションに置き去りにするんですよ」
寿美代は、その間に掃除と洗濯も頼まれたことは、情けなくて言えなかった。
「こっちで仕事してる人は最前線の戦士ですからね。どうしても休めなかったんだと・・・」
博之は彼氏をフォローしようとしたが、寿美代の顔が怒っていたので途中でやめた。
「いいえ。ここの氷より冷たいヤツです。この旅行は最悪なことばっかり!」
「すみません」
「あ。木田さんが謝ることじゃないですよ。私エキサイトしちゃって」
「でも、大連市内でも見所は少しあるし、満鉄博物館(旧満州鉄道本社ビル)とか見学しなかったんですか?」
「何ですか? それ」
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)