冰(こおり)のエアポート
「いや。観光スポットと言っても公園みたいなところばかりで、寒くない屋内じゃ、それくらいしか思い当たらなくて」
「どこにも行ってないです」
「あ。じゃその紙袋はお土産ですよね。それはどこで買ったんですか?」
「今朝、空港に来る前に大連駅の地下街に寄ってもらったんです」
「そうか。そこにはブランドコピー品の店が多くて、面白かったでしょ」
「いえ。まだほとんど閉まってました」
「そう・・・・・・か」
「私、4日間、アイツに抱かれに来たようなものなんです」
博之は一瞬、寒さではなく、その言葉に凍り付いた。
話が続かなくなったところへ、うまい具合にバスがやって来た。
「木田さん。やっと来ましたよ」
博之はもう体が硬直して、PCを落とさないように立ち上がるのがやっとだった。
バスのドアが開くと、皆急いで一列になって乗り込んで行った。しかし、どうやら博之と寿美代の順番までは、補助席さえ残っていそうになかった。
「ああ最悪ぅ」
寿美代が博之を見て、悲しそうに言った。やはり二人の15人ほど前で、ドアは閉められた。
この時、バスは2台でピストン輸送されていたのだが、出発したバスがホテルから戻るのに50分ほどかかる。さっき8番乗り場で走り去るのを見たあのバスが、帰ってくるまでにあと30分程度はかかるのだった。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)