冰(こおり)のエアポート
15:45 抱かれに来たようなもの
さっきの青年がロビーから戻ってきた。走りながら、
「2番です。2番!」
と叫んだので、その場にいた全員が、一斉に速足で移動し始めた。
博之も走って2番乗り場に行きたかったが、両手に荷物を持つ寿美代がいたので、速足にならないように歩いた。
移動途中に、博之はいいことを思い付いた。
「スマホで動画を再生したら、すごく熱くなるんだけど、カイロ代わりになるかも」
「そうですね。賢い!」
寿美代も試してみようと思った。
博之はPCも持っていたので、それにも電源を入れれば、少しは温まるかもしれない。そして歩きながら、試しにスマホに保存していたムービーを再生して、手に握った。
2番乗り場には50人以上が、列を作っていた。中には見覚えのある乗客もいたので、もう間違いはない。8番乗り場にいたメンバーは、列の一番後ろに並ぶしかなかった。でもその後にもホテル予約を終えたエコノミー客が、続々とロビーの方から来て並んだ。
寿美代もスマホで動画を再生して、そのまま毛糸の手袋の中に入れた。また博之もバッグから取り出した氷のように冷えたPCの電源を入れて、お腹に当たるようにセーターの内側に入れてしゃがんだ。
「こんなところでサバイバル気分ですよ」
寿美代も博之の肩に寄り添うようにしゃがんで、また肩や背中を摩り始めた。もう博之のことを放っておける関係ではなくなっていたので、何とかしてあげたいと思い始めていたのだ。
博之は美しい寿美代のことをはじめから意識していた。
鼻で息をすると猛烈な冷気でつーんと痛くなるので、少し横を向きながら口でゆっくりと呼吸するようにした。この時、自分の吐く真っ白な息が彼女にかからないように注意していたが、寿美代はそのことに気付いた。
(こんな極限状態で、そんなこと気にしなくてもいいのに)
と思う反面、
(アイツと違って、きっと心づかいのできる人なんだわ)
と、今朝まで一緒にいた男と比較していた。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)