冰(こおり)のエアポート
二人は立ったり、しゃがんだり、バスが通過するのを残念そうに見送りながら話し続けた。博之は徐々に顔の表面の感覚がなくなっていくのに気付いていた。手にはめたPCの保護袋を顔に当て、息を吹き込んで頬を温めた。
そうして15分以上経った頃、目の前を大勢の乗客を乗せた一台の大型バスが通過して行った。
「あれ、今のバス、俺らの飛行機の客が乗ってたぞ」
最前列の男性がそのことに気付いて叫んだ。
それを聞いて、博之と寿美代の後ろに並んでいた赤ら顔の男が、
「おいお前、いつまで待たされるのか聞いて来い」
部下と思われる青年にそう指示した。この寒さの中、青年の顔はさらに青白く見えた。
博之も体が冷え切って不安になり始めていて、その青年が上司の指示通り、ロビーの方へ走って行くのを祈るような気持ちで見送った。
寿美代は、ちょっと差し出がましいかなと思いながらも、その博之の背中を摩りはじめた。今日会ったばかりではあるが、博之が凍えるのを見て同情し始めていたのだ。
「ありがとう」
「なんか私たちだけ忘れられてるのかしら?」
「中国なら有り得そうな・・・」
「だとしたら最悪ですね。踏んだり蹴ったり」
その通りだった。8番乗り場の乗客は航空会社の手違いで、まったく以って忘れられていた。一方、エコノミークラスの乗客はというと、2番乗り場から次々とバスに乗り込み、フラマーホテルへと移動を開始していたのだ。8番乗り場では、自分たちは特別という思いもあり、そのことを彼らは知る由もなかった。
作品名:冰(こおり)のエアポート 作家名:亨利(ヘンリー)