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茜(あかね)

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「まあ、あくまでも私の作った文学賞だ。文学賞といってもこの部活動だけでの文学賞。賞金もないし、履歴書にも載せられない。そんな文学賞を無理して目指す必要はないし自分で満足できればそれでいいじゃないか。それとも茜さんの詩をここで発表しようか?」
「発表して頂戴。そして文学賞をとった詩と比べて、みんなに審査してもらうわ」
「分かった。まず文学賞受賞の神楽朋美さんの詩から発表します」
 私は「コホン」と咳払いをして読み上げた。
「線路が続くよって歌にあるけど、私達が線路と思って進んできた道が実は間違っていて、世の中にはまだまだ貧しい人がたくさんいて……私には何もできないけどせめて祈りたい。
世界が平和になりますように……」
 茜は、
「この詩が文学賞?貧しい人がたくさんて言うけど、あんた、ハーレムの人達の暮らしとか知ってて言ってんの?どうせ貧しい人をテレビでしか見てないんでしょう?私には何もできないって、できないんなら意味ないわ」
「まあ、まあ」私が茜をとめ、
「分かった。じゃあ、次は君の詩を読む」
「読んで」
「モーレツな雨がザアザアふって、そのあとのカラッとした夏が気持ちがいいのです」
 私が茜の詩を読むと、みんな笑いそうになり、笑いをこらえるため皆下を向いた。
「私の詩の方が季節がテーマになっていてずっといいじゃない。こっちの方がtrue
storyよ」
「君の作品もいい。でも別に文学賞にこだわる必要はないじゃないか?」
「いや、文学賞が取れなきゃ負けよ。いいわ。私が昨晩、短歌を書いたの。こっちの方が
true storyよ。はい。この紙。先生読んで。そうして審査して」
「分かった。読もう。ええ、
 高知城 ライトきらきら きらめいて それにしても かまたムカツク」
 今度は幾人かの人が「プッ」と吹き出した。
「何がおかしいのよ」
 そのあと茜は皆ともめたが私が仲裁に入るという形でやっと文学の会を終えた。
 そして茜は鶴を折るために、一人残った。
「茜、鶴だったな。折り紙は?こんなにたくさんあるのか」
 私が、
「まず、こう、三角に折る」
「それは分かるの」
「そうしてこう折る」
「それも分かるわ」
「そうしてこうやって」
「あれ?どうしてそうなるの?もう一回」
「こうやって……」
「こう?」
「そう。こうやるだろ。そして折り目をつけるため」
「ちょっと待って」
 そうして二人で一羽ずつ鶴を折りあげた。
「先生、今のじゃまだ覚えられない。もっと折るわ。そうしないと帰って忘れちゃう。また折っていい?」
「ああ、いいよ」
「今度は私一人で折ってみる。先生見ててね」
「ええと、こうやって、ええと」
 私は茜が鶴を折るのをじっと見ていた。
「ええとこうやって」
 茜の鶴を折る様はまだあどけない不器用さが感じられた。
 茜はその後も何羽か鶴を折った。その間、私も鶴を折った。茜が鶴を一羽折っている間、私は二羽折ることができた。二人で折っていると茜はこんなことを言い出した。
「先生、私に親しみを感じる?もっと近い関係になりたいと思う?」
 私は
「とにかく……」
「とにかくって言葉、私嫌いなの」
「君と、そのつまり近い関係にはなれないが、誤解しないでくれ。茜が学校でみんなと仲良くやっていくため、成長していくため必死で見守る。君の成長を願う」
「私は成長しているわよ。自立心も強く……」
「自立心も大事だが、もっとみんなとの調和を……」
「調和?調和って何?」
「つまりみんなに合わせて、みんなと同じ空気を分かち合い」
「それが成長するってことなの?その調和っていうのが私に必要な成長なの?はっきり言いきれる?」
「それは……」
 私が悩んでいると、
「まあ、いいわ。今日は鶴の折り方を教えてくれてありがとう。今度こそ文学賞受賞するからね」
「ああ、そんな力むなよ」
 そう言って茜と別れた。
 その頃だったからか茜は決して成績のいい方ではなかったが、英語だけはグングン伸びていった。もともと小学校で英検二級はもっていたらしく、うちの学校の中間テストや期末テストでは簡単すぎて、茜の力量がはかれなかった。英語はいつも校内で十番か二十番くらいだった。しかし模試の難しい試験で茜は学年トップになった。高知県内でも五千人くらいの中の四番だった。
 茜は文化祭に向けたよさこいソーランの踊りの練習に参加しなかった。そうして皆からひんしゅくを買った。私は茜を職員室に呼び出して、
「よさこいソーランは高知の立派な文化だ。まずそういう練習に参加することから……」
「あんなダサい踊り踊れないわ。もっとヒップ・ホップみたいな、例えばレ・ツインズとかクイッククルーみたいなダンサーのダンスの練習をした方がずっといいわよ。あんなのおかしいわ。阿波踊りなんてまるで狂った集団よ。ひょっとしてあんなのに参加することが私の成長なの?」
「とにかく……」
「とにかくって言葉、私嫌いなの。前にも言ったでしょ。もっと私のことを知って!」
 そう言い捨てて、茜は職員室を出て行った。
 春になり、皆が高校二年になった。
 ある文学の会でのことだった。
 私はまた今月の文学の会の文学賞受賞の発表をしなくてはいけなかった。
「今回の受賞は藤原茜と西郷瀬奈の二人だ」
「二人?受賞者が二人?」
 茜が納得のいかないように言ってきた。
「そうだ。まず藤原茜さんの作品から読もう」
「読んで」
「世界で子供達の命が誕生する。青い炎のような命
 青い炎はゆらゆら揺れ、私達はその青い炎を絶やさないよう大事に守らなければならない。残酷なテロ。人の命が脅かされる。日本はセーフティーな国。
 セーフティーな国ジャパン」
 次に西郷瀬奈さんの作品だ。
「遠い国から来たのでしょうか?ここの暮らしが合わないのでしょうか?私達も歓迎したいのですが、恥ずかしい話、私達はここ高知から出たことがなく、いろいろな意味で無知なのです。あなたはきっと、この桂が浜の先の大きな海の向こう側のことまで知っていて、大きな世界を体験しているのでしょうね。うらやましいです。私達が、その大きな世界に対して無知であると同時に、あなたも日本に対して無知なのではないでしょうか?お互い無知なもの同士、分かりあえたら、きっと、楽しい毎日が送れるでしょう。私達は歓迎するわ」
 私がそう読み上げると茜はすくっと立ち上がり、文学の会の教室を出て行ってしまった。
 私は追いかけた。教室のものに、
「今日の文学の会はこれでおひらきだ。ごめん」
 そう言って茜を探した。彼女は渡り廊下の先の体育館前で一人たたずんでいた。
「茜。職員室の中の面談室に行こうか?」
 そう言うと茜はコクッと頷いた。
 面談室に入り、私が、
「急に飛び出すから先生びっくりしたよ」 
 そう言うと、
「うん」茜はそう言った。
「とにかく……」私が言うと、
「とにかくって言葉、嫌いだって言ってるでしょ!」
「悪い……」
作品名:茜(あかね) 作家名:松橋健一