それから
「・・そうかも知れませんが、ちょっとだけ社長さんと・・ 俺も、早く帰りたいので・・」
「分からん奴じゃのう。今は、駄目じゃと言うとるじゃろが!」
よく見れば、この大声を上げている男、俺よりも若く見える。20代半ばか・・
(若造が、粋がりやがって・・)
と、彼同様に若造の俺は、思った。
「すみません・・、先に話しをしているのは、よく分かるのですが・・ 俺も、さっき言った通り、早く帰りたいから、ちょっとだけ・・」
と言うと、社長が、断りを入れて、彼を待たせたまま事務所に出て来た。
「社長、事情は、大体察しが付きます。失礼な言い方ですが、俺の給料分で、取り敢えず間に合いますか?」
「・・?」
「いや・・、俺が頂く額を、奴に渡せば、当面何とかなりますか?」
「・・それは、、、何とか成るじゃろうけど・・」
「じゃあ、それを奴に渡してください。俺の方は、他にバイトもしてますから・・」
と、社長を説得。社長は、気にしながらも何某かの金額を渡した。
「また来月来るけん・・」
と、奴は、肩を怒らせて事務所から出て行った。
実は、この時罵声の限りを尽くして、帰って行った奴こそ、今、俺達の会社で、若い従業員のリーダーとして、
「真面目にやれぇよ・・」
などとホザイテいる賢治なのだが、その彼との薄からぬ因縁話は、また何時かの時に・・