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ナオを愛してやれ

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「ナオ、きれいだろ? なあ、マモル、この世は支配するか支配されるかだ、そのいずれかであって、どちらかに属さなければ生きていけない。ナオは支配される側で、この俺は支配する側だ。美しいものを支配するということは実に楽しいことだ」と笑った。
マモルは言葉が出なかった。
「もう、いい上がれ」と叫ぶと、すぐにナオはプールから上がり、濡れた身体をタオルで拭きながら、高橋の側に来た。
「中国人というのは、腐るほどいるんだ。一人や二人、消えてもどうってことはないんだ。それほどこの地上に中国人はあふれている。……抱きたかったから、抱いていいんだぜ」と挑発するかのようにナオの濡れた髪をなぜた。
「誰を?」
「決まっているだろ、ナオさ。尻の形も乳房のいい」と言って今度はナオの身体を指でなぞってマモルの顔をうかがった。マモルの視線はずっとナオの顔に釘付けであった。ナオの顔は高橋の指の動きに合わせて微妙に反応する。それは未だマモルの知らぬ女の顔である。また、あのひと顔がふいに浮かんだ。
「どうした、マモル?」と高橋が尋ねたのは、マモルの顔が一瞬、何か苦痛に襲われたかのように歪んだからである。
強い日射しが天空から射してくる。
「何でもない、何でも……」と言ってマモルは倒れた。
マモルが気付くとベッドにいた。そして時計を見たら、もう夜になっている。耳を澄ますと、隣の部屋から女の何とも艶めかしいうめき声が聞こえてきた。ナオの声だった。

七月の中頃、バイトの帰りの夕方、 一台の派手な外車がマモルの前に止まった。
 高橋が車から降りた。助手席にいたサングラスの女も下りた。
「ナオ、マモルを慰めてやれ」
高橋はキーを女に渡した。女がサングラスを取った。笑みを浮かべた女は紛れもなくナオであった。
ナオはマモルに車に乗るように言った。
高橋を置いたまま、車がゆっくりと走り出した。
「高橋さんは?」
「彼はこれから遠くへ行くの」
「どこへ?」
「分からない。その間、マモルのところに行けって言ったの、嫌?」
マモルは何も答えなかった。夏は故郷に帰ることを考えていた。死んだように静かな故郷の夏、若者がみな都会に出ていってしまって、年寄りと子供しかいない。退屈の田舎な時間を過ごすのだ。
「どうしたの? マモルさん」
「何でもない。どこへ行く?」
「あなたの部屋へ行こう思っている」
「ちょっと距離があるけど……」
「いいよ。道案内して」とナオがほほ笑んだ。
 マモルがうなずくと、「じゃ、出発よ」とナオが宣言した。

街外れにあるいかにも安っぽいつくりのアパート。そこは学生しか住んでいない。マモルの部屋は西日の入る二階の部屋。ステレオと本棚とベッドで部屋の中はいっぱいである。部屋に入るとすぐに窓に開けた。
「汚いて、狭い部屋だろ」と少し自嘲気味にマモルは笑った。
「ちょっとだけ」とナオは答えた。
マモルはじっとナオを見ていた。美しいと思った。それを言葉にしたかったが、適当な言葉が見つからず、じっと見つめているだけだった。 ナオは恥ずかしいと思ったのであろうか、視線をそらした。
突然、ナオは、「掃除をすれはきれいになる」と言って部屋を片付け始めた。
「コーラでも買ってくるよ」と言ってマモルは部屋を出た。戻って来た時、部屋はかなりきれいになっていた。
 マモルは冷たく冷えたコーラ缶の蓋を取り、ナオに差し出した。
缶を受け取ったナオは、窓辺に行った。窓からは夕焼けに染まる山並みが見えた。
「ここから山が見えるのね。いい眺めだね」
ナオは胸の上のボタンを外していて、豊かな胸の割れ目があらわになっている。それが引きがねになった。マモルはナオに襲いかかった。ナオは軽く笑いながらたしなめた。
暑い日射しが窓から飛び込み床に容赦なく突き刺さる。
ナオが、「あわてないでよ。ねえ、暑くない?」とほほ笑むと、マモルはカーテンを閉めたと、暗くなった。
「少し見えないね」とナオは少しカーテンを開けた。微かな日射しが床に射した。
ナオは服をゆっくりと脱ぎ始めた。上着が床に落ち、スカートのチャックもおろした。
「高橋がなぜ、わたしをあなたに頼んだか分かる?」
「分からない」
「他に愛人ができたのよ。彼も四十よ。何人もの女を愛せるほど体力がないのに」とナオは笑った。少し、大げさの身振りで。
 ナオの笑いがふいに止まった。二人とも沈黙した。ふいにマモルはナオを抱きしめ、貪るように愛した。終わった後、初めてであったが、ナオはマモルに「良かった」と言って頬にキスをした。
 
それから毎日ようにナオは訪ねてきた。
ナオはマモルの熱情を拒みはしなかったが、明るいところで抱かれるのを拒んだ。恥ずかしいだけだとマモルは勘違いした。しかし、それは間違っていることに気づいた。
暗い夜だった。朝からどんよりとした雲が空を覆っていた。二人は激しいまでの愛を繰り返した。二人とも裸のままベッドの上に横たわっている。すると、カーテンから漏れた月明りが漏れてきて、彼女の身体に明かりを差した。そのおかげでマモルはナオの豊かな臀部に一筋の傷痕があるのに気づいた。鞭で叩いたような跡である。マモルはそのわけを聞いた。
「マモルには知られたくなかった」とナオは言った。
「言いたくないなら言わなくともいいよ」
「聞いて」とナオは話し始めた。
それは実に悲しい話であった。彼女の話によれば、十二歳の時、中国で拷問を受けたときの傷だという。
「私の父は中国の共産党幹部だったの。十五の時、父が上司の悪事を告発したら、逆に濡れ衣を着せられ、命からがらに香港に逃げたの。もっと聞きたい?」とナオが尋ねると、
「もう良いよ。過去は忘れよう」とナオを抱きしめた。

 八月の終わりで、高橋が戻ってきた。マモルをホテルの喫茶店に呼び出した。
「どうだ、ナオとうまくいっているか?」と高橋が聞いた。
「え、うまくいっています」
「もうじき、夏休みも終わりだろ。ナオをどうする?」と笑いながら聞いた。
「できれば、一緒にいたい」とマモルが言うと、
「それは止めとけ。そんな女じゃない」
 マモルはナオに尻にある鞭の跡の話をした。
すると、高橋は大笑いした後、「そんな戯言を信じているのか? ナオは香港の生まれ育った女だ。中国本土に一度も行ったことはない。十六の頃から娼婦だ。あの傷跡はSMの跡だ。俺がつけた。思わず力いっぱい叩いたせいだ。もっとも俺にSMの趣味はない。ナオの趣味だ。叩かれると興奮すると言った。そんな女だ。美しくて気高そうな顔をしているが、偽りの仮面だよ。偽りの仮面に騙されるな。何なら、今から、その証拠を見せてやる。お前の部屋に行こう。ナオがいるだろ?」
そう言うと、高橋はマモルと一緒にナオの部屋に訪れた。
部屋に入ると、高橋は、ナオを裸にした。四つん這いになるように命じた。
「これがナオだ。お前が愛しているナオだ」と言って尻を叩いた。
マモルはあっけにとられて動じることができなかった。同時に、恍惚な顔をするナオを見て、今まで思い描いていたナオのイメージが跡形もなく消えた。


作品名:ナオを愛してやれ 作家名:楡井英夫