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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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愚者

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「そういう意味じゃなくてさ・・・誰が答えを教えろって言った!」

「副部長・・会話の中身は指定しませんでしたよね?」

「察することをしらんか!」

という具合にいつも馬鹿話で盛り上がった。

太一は、この馬鹿話におもしろさを見出さなかったが、人と密度こく付き合うことは、少しでもこの世界と関わりをもつことだと心得た。

しかし、スクリーンに映った俳優にふれることができないのと同じで、同じ空間にいる他者との距離は歴然としてあった。

しかし、世界と溶け合う手がかりがこの部活にあるのではないかと直感した。

何が手がかりなのか

何が答えなのか

何が糸口なのか

誰が導いてくれるのか

手応えを感じながらも、その答えを導き出せずにいた。

そのもどかしさに苛立ちを覚えながらも、確実に前進している手応えに、安心感を覚えた。

しばらくするとあの男が入ってきた。泰蔵である。

「太一!聞いてくれよ!」

「いやだ!」

「どうしてだよ!あのな・・」

「暑苦しいんだよ」

つい本音を言ってしまった太一であった。

「暑苦しいって・・・」

「違うよ〜」

「そうだよな。理香」

「うっとおしいんだよ」

「もっとまずいじゃないか・・・」

落胆する泰蔵

そこへ部長の静香が入ってきた。

「ごめん。ごめん。世界史の再テストに引っかかっちゃって。てへ」

「かわいくないから、しなくてよろしい。早く部活始めてよ」

「太一君ひどいなぁ」

「ひどいでしょ?私にもひどいこと言ったんですよ」

「理香さん言ってごらん。お姉さんが聞いてあげる」

「いえ・・・いいです。遠慮します。」

部長の静香は兎に角変人と名高い。

レズ

マゾ

腐女子

を筆頭に、不名誉な肩書きを多くもつ。

それをステータスに思って喜んでいる変態である。

「部長。理香が怯えているじゃないか」

静香の異常行動をなだめるのは副部長神田の役目である。

「神田君?私の事が嫌いかしら?いつも私の邪魔ばかりして」

「人に優しくが俺のモットーだからな」

「神田君?私に意見することがどんな災いを引き起こすか分かっていないようだわね」

同時に静香は根っからのSであり、自分に抵抗する男がいると我慢できなかった。

男は自分にひれ伏すべきだというはた迷惑な思想をもっており、その思想を現実にするだけの実行力があることもあり、男子からは「女帝」と呼ばれている。

「はは。冗談だ。さあ早く部活を始めよう」

基本的には人に優しいが、他者と衝突しそうになると、ひらりの身をかわすその様は、何故か知性高い印象を与えた。

それ故、静香の「女帝」に対して「法王」と呼ばれた。

イベント研究会のメンバーは、部長の「女帝」と副部長の「法王」という称号を受けて、それぞれタロットカードの名前が当てられる習わしとなっている。

理香は、大人しい性格であるが、大の読書家で、語彙力思考力は並はずれて高い。

また、童顔で幼い立ち振る舞いから、「女司祭長」と呼ばれていた。

泰蔵は、単純馬鹿だが、これときめたものには、ねばり強く取り組む忍耐力があった。

そのため「吊られた男」と呼ばれた。

泰蔵自身は、他の呼び名と比べて格好悪いとへそを曲げたが、彼をみんな正当に評価した故のものだと気付かない恩知らずである。

太一は、世界との距離感に絶望することがたびたびあり、その都度、全てを捨てて放浪する癖があった。

それゆえ、自由を求めて放浪するが、いつかは自分の場所を見つけ安定して欲しいという願いを込めて「愚者」とした。

そうやってタロットカードに合わせて称号をつけていくと、何故かそのカードの意味に合う行動を取っていることに気付かされる。

それは、元々の性格が、見事にカードに当てはまったのか、カードの意味に性格が近づいていくのか分からない。

兎に角、カードの意味と行動の一貫性が見られるのである。

この不思議な現象は富岡高校七不思議の1つになっている。

彼らは知らず知らずのうちに、学校全体に影響を与えているのである。

さて、いよいよ部活が始まった。

「さあ部活を始めましょうか。神田君。司会をして」

「あい。じゃあいつものように企画会議をやるよ」

司会をするのは神田の役目である。

そして口火を切るのはこの男

「はい!俺にいい案があるんだけどな〜」

「あい。泰蔵その案をどうぞ」

「あの〜神田先輩?俺の案が採用されたら、俺にイベントの司会をやらせてもらえませんか?」

「却下!」

いつも静香のその2文字で全てが終わる。

「そんな・・・・企画も話していないのに・・・」

「そんな交換条件を出す男嫌い!」

静香は男には異常に厳しい。

「おい部長。好き嫌いで決めるのはどうかな〜」

相変わらず、静香につっこめるのは神田副部長のみ

「神田君?私に文句あるの?」

「今日2度目だよ。このお嬢さんは・・・まあ静香は部長だしね・・」

しかし、決まって折れる結果となる。

「ん〜どうせ司会やりたい奴いないんでしょ?女帝と法王が表にでたら大騒ぎだし、俺はそんながらじゃない。理香は、裏方専門だしね。」

「ふ〜ん。涼しい顔してまともなこと言うじゃない。何にも興味ないという顔をしているくせに・・・何を考えているんだか」

「余計なお世話です」

事を荒立てるつもりはないが、自然と悪態をつくような言葉が出てしまう。

人間関係を重要視しないがゆえの自然な言動である。

「まあいいわ。泰蔵君。失敗したら殺すからね。覚悟ある?」

そういいながら、静香は刀を出す。

「そういえば・・・部長は骨董品店で、刀をよだれを流しながら眺めていたけど・・・買ったんだ」

理香は、刀が泰蔵への罰ゲームに使われるということよりも、刀を静香が購入したことに目を向けた。

理香は、このように人と違った感覚をもつ。

これを人は「天然」と呼ぶ。しかし、決まってそういう人は、自分が天然だということを認めない。

「これはね・・・・模造刀じゃないんだよ〜えへ。徹夜して磨いたから切れるよ〜切れ味を試したかったんだよね」

「部長・・・・本気ですか・・・」

静香だったらやりかねないと踏んだ泰蔵は命を失うかもしれないという恐怖を生まれて初めて感じた。

「ん?冗談だと思う?というより、覚悟あるんでしょうね」

「・・・・はい・・命がけで頑張ります・・・・どうしよう・・」

泰蔵は太一に泣きつく。

「冗談抜きでやるから女帝って呼ばれているんだ・・・あきらめよう」

「そんな・・・太一!助けてくれよ〜」

太一は、これがいわゆる命乞いってやつかと妙に納得しながら泰蔵を眺めた。

「土葬でいいよな?火葬はお金かかるし。あ、それは家族がすることだな。悪い悪い。余計なお節介だな」

神田は人ごとだと思うのか、緊迫している雰囲気にもかかわらずゆるい発言をしている。


「それしゃれになってねぇよ!!」

ついに泰蔵はきれてしまう。

「あ?誰に向かって物言っているんだ?!!」

神田は上下関係には厳しく、なめた言葉遣いをするとそれ以上の迫力でもって威圧する。

作品名:愚者 作家名:仁科 カンヂ