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そこに海はなかった

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 大きな夢。そう、夢だった。漠然と夢をみていたのだろうか。『かっこいいよな』とか『誰でもなれないよな』とか、『年収凄いよな、きっと』とか、とか……。そう、憧れだったのかも知れない。だけど、その夢も憧れも、一緒に分かち合うことが出来たから、頑張れたのではないのだろうか。先をゆく時間の方が長く、来た道を振り返るよりも先の道のりの方が遥かに長い。先の道のりが充分にあるからこそ、夢や憧れを抱き、掴みとることができるのだ。
 シャワーの蛇口を閉じる。
 髪を伝い落ちる雫をみつめながら、今日の最終フライトで、搭乗客の襟元にあった社章にひどく目を惹かれていた自分、無意識にいつもそれを探していたことを今、優希は、はっきりと気づいた。


                     ※

「終電に間に合うかな」
 課長随行でクレーム処理の後、接待を終えた高志は、駅に向かって急いだ。
 高志は歩きながら、今日を思い出すだけで卑屈になっていく自分を感じた。
「どうして、オレのミスなんだよ! 課長アンタだろ。ろくに説明もしないで、やってみろってか---。挙句の果てに、自分のミスを押し付けやがって。これが憧れた商社マンの実態かよ---」
 駅に着くと、終電は出た後だった。駅員が改札にシャッターを下ろす。静まり返った周囲に油の切れた音が響き、改札の屋根にいた野良猫が慌てて逃げて行く。
入社して五年で主任の名刺はもらったけれど、世界を飛び回るビジネスマンには、ほど遠い自分に辟易する。同期で早いヤツはこの春に係長に昇進したことを思うと尚更気持ちが萎える。
「オレって、かっこ悪いよな……」
 閉まった改札の横にある自販機を目の端にとらえると、切れかかった蛍光灯が、せわしなく点滅していた。ポケットの小銭を取り出し、自販機に入れる。
 ネクタイを無造作に緩めると、自販機に並んでベンチに腰を下ろし、プルタブを開けると、オレンジの香がした。
「オレンジ、優希、好きだったな。お前って、すごいよ」
 高志は、オレンジジュースを飲み干すと、空き缶入れに投げ捨てて、タクシー乗り場に向かった。「さぁ、早く帰ろう。明日から、香港への出張だ。課長随行だけど---」
作品名:そこに海はなかった 作家名:ヒロ