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夢風船(詩集)

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幻影だと人は言うが
宇宙のかなたまで走る

その姿が月に輝いて
金色の毛をなびかせている

何を求めて駆けるのか
地球の危機を
誰に伝えようと言うのか

人間の愚かな行為が
地球を壊滅させている
その事実を伝えるためか

地球の終末を告げる

その叫び声はいつ
聞こえてくるのか



   水の恵み
滔々と流れる大河は
濁流となって
市街地にあふれ出る

なすすべのないのは
治山治水の誤算が
原因のようだが
想定外というい言い訳がる

遊水地を埋め立てて
家屋を建てた
古来からの知恵を無視し
浸水に襲われた

高度成長期の乱開発が
地震という自然の狂気に
結果を示された

ため池を壊滅させた農村で
渇水騒ぎがおきる
行政の誤りだったと思う

昔懐かしい田園風景は
ため池の点在する
緩やかな自然だった

.  

   世の中を変える
騒々しい世の中に
なっている
テロだ戦争だという

それだけではない
身近には
ありとあらゆる
事件や事故や犯罪が
起きている

人の心がすっかり
すさんでいる
他人のことを考える
余裕を失った

生きることが難しい
世の中を
変えることができるのは
人間の心なのだ



   秘密
秘密のヴェールが
深く閉ざす地上に
比べて
天上はどうしてあんなに
明るいのか

地上には人間がいるから
自分たちのために
秘密を作るのだろう

秘密は相手から自分を
守ために
不可欠なことだと
プライバシーの保護が
制度化されている

ネットワーク社会で
何が
保護されるのだろう
すべてが
筒抜けだとおもったほうが
いい

役所も銀行もカード会社も
学校、病院、あらゆる機関が
個人情報を持っている

この情報社会を泳いでいるのが
個人なのだから
悪意の魔手にとらわれる危険は
充満している

テレビ、放送、出版物は
情報を流す媒体なのだ
それに
昔ながらの口コミがある

秘密のヴェールを除いてしまえば
赤裸々な人間の実像が
白昼に曝されるだろう

情報公開を他者に求めながら
自分は秘密の中に生きようとする
それが
戦争のしくみというものだろう

秘密というものによって
人間は生きている
だから地上は地獄だといえる
のではないか

天を仰いでそのむなしさを
知るとき
人は喜んで死を迎えいれるだろう


    工場は月の下
煌々と照る月は
工場の屋根の遥か上に
秋を
告げるようにかがやく
海浜を埋めるように続く
プラントは
石油化学の基地なのだ
海はその向こう

失われた自然の砂浜を
思い浮かべて
遠い昔の唱歌を歌う
あの頃のわらべのように

これは感傷なのだと
思いながら
戦後の繁栄を通り抜けた
平成のいま
この国の行き先を思う


  
  サイパン慰霊の旅
サイパンに
慰霊におもむかれた
両陛下の映像は
優しさにみちていた

バンザイ・クリフの
慰霊は
ブルーの風の海を
限りなく鎮めた

声高に
不戦の誓いをする
という
政治家の靖国と
対照的だったのでは

戦争犠牲者の霊を
敵味方の差別なく
慰めて
両陛下はサイパンに
真心を示された

己の信念を
誇示するために
靖国に参拝するのは
神を敬う心でも
慰霊でもない
傲慢な行為に過ぎない

両陛下の慰霊の旅は
日本のそして日本人の
真心を
世界に伝えられた

       (終)



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作品名:夢風船(詩集) 作家名:佐武寛