無人島ナウ!
ボートで海を漂う三人―
朝が来て昼になり、また夜になり、また朝が来て、昼になり、また暗くなる。まる二日たった。康平は、
「救助隊こないなあ。あっ朝日が、これで漂流して三日目だ。どこまで流されたんだろう」
健二が、
「あれ、あそこ、ぼんやり何か見えないか?」
裕也は、「どこどこ?」
「ほら、あそこ」
健二が指さす方向に何かが見える。康平が、
「島だ。島が見える」
「とにかく島に向かおう」
三人はボートから手を出し、手で水を必死でかいて島へ向かい、辿り着いた。
島に着き、健二は、
「誰か?助けてください。僕達は遭難してます。誰か!」
健二の声が虚しく響く。
「人の気配が全く感じられない」康平は言った。
裕也は「まさかここは」
康平は真剣な表情でこう言った。
「太平洋のど真ん中の無人島」
健二は、
「そのようだな。なんてこった。あの占い師、血液型も当てられなくせに、こんなことだけは当てやがる」
裕也は、
「大丈夫?この島。変な動物とかいない?怖いよ」
「とにかく、生きのびて救助隊を待とう。火を起こせば運が良ければ、捜索隊の飛行機に見つけてもらえるかもしれない。火を焚こう。ところでみんな生きのびるため、命の次に大事なもの何かもってきた?俺はスマホ」
「俺フィギュア」
「俺Tポイントカード」
「だめじゃん。俺達。絶対生きのびれないよ」
康平が泣き声のようにそう言う。健二は、
「とにかくそのスマホで一一〇番しよう」
康平は、「でも圏外。やっぱり通じない。しかも充電なくなりそう」
「充電器は?」
「あるけどコンセントがない?」
裕也は、
「とにかく変な動物がいるかもしれない。植物だって、ほら、見たことのない南国っぽい植物ばっかじゃん。とにかく家を建てよう」
健二は「どうやって建てる?康平の親父大工だろ」
康平は、「俺はいつも親父の仕事馬鹿にしていて、絶対大工になんかなりたくないって思ってたんだ。だから大工の知識全くない。いや待てよ。前スマホをいじっていた時、素人でも簡単に家を建てられるって聞いたことある」
「どうやって?」健二が言う。
「ロッジを建てるセットがあるんだ」
裕也は、
「そのセットどうやって手に入れるの?」
「そりゃあ、アマゾンで……ってここ無人島じゃん。いや待てよ。でも木材さえあれば……」
健二は、「木材があると建てられるの?」「うん。建てられるはず」
「その木材はどうやって?」
康平は、「だからホームセンターで……ってここ無人島じゃん。待てよ。ベニヤ板がなくても木があるから自分達で板を作って……」
「ベニヤ板で家が?」
「ああそうだ」
「でもどうやってベニヤ板を……」
「だからのこぎりで……ってここ無人島じゃん」
健二は、「駄目だよ。俺達絶対生きのびれないよ。康平卒論でベーシックとか言ってたけど、全然説得力ないじゃん」
裕也は、
「怖いよ。死にたくないよ」
しばらく三人は途方に暮れていた。康平が、ジャングルのような物の中を指さし、
「あの中に食料になりそうなものがないか探そう」
そう言って三人はジャングルに入った。
裕也は、「怖いよ。危険だよお」そう言う。
「せめて木の実でもあればなあ」三人は必至で探したが、食料らしきものがなかったから、また浜辺に戻った。
「どうしよう。お腹へったなあ」裕也が言う。
康平は、「そう言えば健二。お前出航前かば焼き君買ったなあ。あれどうした?」
「まだ三枚あるよ」
「やったあ、じゃあ三人で分けよう」
「お前、俺がかば焼き君買ったとき、ガキのお菓子って馬鹿にしたよなあ」
「今そういうこと言ってる場合じゃないだろ、健二。分かった。かば焼き君を買おう」
康平が言うと、健二は、
「まだ売るとは言ってないぞ」
「なんだ。じゃあ、分かった。かば焼き君を一つ百円て買おう。それでいいだろ?」
「百円?値段設定する権利は俺にある」
「分かった。じゃあ、いくらなら売るんだ?」
「うーん。一枚五千万かな」
「今なんと?」
「だからかば焼き君を一枚五千万円」
「五千万円っててめえ足下見るのもたいがいにしろ……十円のかば焼き君が一枚五千万円もするわけないだろ。ふざけんな」
健二は言った。
「いや康平。この話を知っているか?岩崎弥太郎の話。のちの三菱財閥の創始者。彼は牢屋に入ったとき、こんな話を聞いたんだ。一銭の饅頭が時と場所によって十銭にも百銭にもなると、そして今は食料がなく生きのびないといけない状況。かば焼き君一枚食べることによって一日長く生きのびるかもしれない。そうすれば、救助隊に助けられる確率も上がる。かば焼き君一枚五千万は決して法外な値段じゃない。それに五千万という金も俺達がみんな助かって日本に帰ってはじめて受け取れるお金。俺はそのお金を結局受け取れないかもしれない。そして俺は二人にかば焼き君一枚ずつを売ったら、俺が生きのびる可能性が下がる。別に買いたくなければ、買わなくていいんだよ」
康平は、「てめえ。屁理屈ばかり言いやがって卒論で私達は利他的にだとか無償の心にならなくてはいけませんとか言ってたくせに……」
その時、裕也が、
「この砂の中にあるのあさりじゃない?」