CLOSE GAME
戸惑いながら、ボクが頷いたその時。
「あ!」
ユウタのペンダントが胸に掛かったままフワリと浮き上がった。まっすぐに森の奥を示すようにゆらゆらとユウタの前に浮いている。
「あっちに行けってこと?」
クリスタルと同じ方向を指差すボクに、
「うん」
ユウタが頷く。
「一緒に行こう。……えっと……」
「“タカヒサ”だよ、ボク」
「よろしくね。タカヒサ」
笑顔で差し出されたユウタの手。
「ボクの方こそ、よろしく、ユウタ」
それを握り返して、ボク達はクリスタルの指す方へと歩き始めるのだった。
ユウタのペンダントが示す方向へ歩き始めてどれくらいたっただろう。森を抜ける気配は一向になく、何度かモンスターにも遭遇して、戦って、僕はクタクタだった。そう、ユウタには戦う意思がないらしく、モンスターに出会っても戦おうとはしないでボクの後ろに隠れてしまう。ボクはというと、そんなユウタを見て、逃げるわけにもいかず背中の矢を抜くしかないのだ。
「ユウタも少しは戦闘態勢とってよ!」
抜けられない森。クタクタの身体。ボクはイライラして、ユウタに声を上げた。
「……でも、ぼく、回復魔法しか……」
「魔法しか使っちゃいけないってルール、ないだろ!」
元々、丈夫じゃない身体。イライラが募って、喉の奥が、小さな音をたて始めた。
「魔法……以外って?」
苦しくなり始めた息の中、ボクはユウタの手を掴む。
「この手。枝を振り回すくらい、出来るよね?」
「……でも、ぼく……」
ユウタが目を反らして首を振った。
「怖いのは、ボクだって、同じ、なんだから」
疲れやストレス、怒ったり、泣いたりは、発作を引き起こす。疲れてる上にイライラして怒ったボクに、激しい呼吸困難が襲いかかった。気管が縮まり、吸っても吸っても酸素が運ばれない。喉には痰が絡み、咳をしても出てこない。
「タカヒサ!」
ボクに責められて涙目になっていたユウタが、涙の溜まった瞳のまま、胸のクリスタルを掴んだ。
「天の光、地の光、数多の自然の光よ……」
呪文の間も、乾いた咳が止まらない。
「どうしよう……」
光り始めたクリスタルの輝きが、ほんの少しだけで消えてしまった。ゲームで言う“MP”がなくなった状態なのだと思った。
「ぼく、ぼく……」
ローブで涙を拭いながら、ユウタが「ごめんね」を連呼する。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒