CLOSE GAME
唯一の明かりだったユウタのクリスタルが無くなった所為で、すぐ近くにいる筈のお互いの姿すら見えない事に不安になるボクら。
「お! 閃いた!」
声と同時に重々しい金属音がする。
「……藍の炎……」
リョウスケの呪文だ。そう思った時には、辺りは明るく照らされていた。
「どうよ!」
誇らしげな声と共に、リョウスケが大剣を掲げて見せる。炎をまとった大剣が、たいまつのように洞窟の中を照らしていた。
「さっき通ってきた道って、アレだよね?」
奥から二番目の通路を指さすボク。
「探しに行った割には、静かだよな」
そう言ったリョウスケの顔が心配そうに歪んでいる。
「そーいや、ソウイチロウの奴……」
何かを思い出したかのようにリョウスケが呟いたその時、黒い影がリョウスケの背後に広がった。
「リョウスケ! 後ろ!」
叫びながら、ボクは背中の弓矢を抜く。
「風よ……」
リョウスケの後ろに広がる闇に向かって矢を放った。同時に振り向いたリョウスケが炎の剣を袈裟懸けに振り抜く。斜めに半分になった影が風で散っていったのも束の間、不気味に揺れると元の大きな影に戻った。
「何だよ、こいつ!」
構え直すリョウスケ。その隣でボクも次の矢を抜いた。切り裂こうが射ろうが、すぐに元の形に戻ってしまう影。ボクらの息が上がるのに、そう時間は掛からなかった。
「キリが無い……」
肩で息をしながら呟く。
「……切ってダメなら……」
舌打ちをしたリョウスケが静かに目を閉じた。
「藍の炎、緋の炎……」
そして、呟くように呪文を唱える。
「……我に従いて、その力を解き放て!」
紅蓮の炎が剣の上で音を立てて燃え上がった。
「これで、どうだ!」
リョウスケが踏み出し、大きな炎をまとった剣が影の中心に突き刺さる。断末魔の叫びを上げて影がその剣の刺さった所から渦を巻いて闇の中に吸い込まれていく。
「え?」
リョウスケが声を上げた。渦の中心に向かって収束していく影。その中心に刺さる炎の剣。
「ヤバッ! 抜けねー!」
「えぇえ!?」
慌てて伸ばしたボクの手をすり抜け、リョウスケの姿は影と共に闇の中へと吸い込まれていった。
嘘のように静まり返る洞窟。闇の中にはリョウスケの声も姿も残っていない。
「……嘘……」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒