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「ここでやってもいいんだけどね」
 クスクスと笑っているのはサトルだ。
 右にリョウスケ、左にサトル。ボクは背泳ぎみたく水に背中を浸した形で、ふたりに引っ張られていた。
 岸辺にいたソウイチロウとユウタに引き上げられて、ボクは飲んでしまった水にむせ返る。
「大丈夫?」
 ユウタが心配そうにボクの背中をさすってくれる。
「飲んでも“回復の水”だ。大した事ない」
 ソウイチロウってば、冷たい。
「にしても、背面で引っ張ってきたのは正解だったな」
 ボクの額を人差し指で弾いて、ソウイチロウが笑う。溺れている人間を正面から助けにいくと、しがみつかれて共倒れになってしまう。だから後ろに回ったと言うのだ。左右から脇ごと腕を掴めばしがみつかれる事はない。
「ま、思ったより暴れなくて助かったぜ」
 ボクの顔を見てニッと笑ったリョウスケが、ソウイチロウと同じようにボクの額を弾いた。
「それ以前に、諦めてたもん。タカヒサってば」
 “てば”と同時に、サトルからも弾かれる。
「えっと……。え、と……」
 ボクの前にいたユウタがリョウスケに背中を押されて戸惑っている。ソウイチロウが顎でボクを示し、サトルが右手を差し伸べ……。
「えいっ!」
 ユウタがボクの額を弾いた。
「何だよ!」
 四人を見回して拗ねるボクを見て、みんなが笑っている。笑ってるみんなを見回して、ボクは気付いた。片手でボクを支えて泳いでくれたのは、リョウスケとサトルだ。ボクの額を弾いたのは、サトルの右手中指だった。
「サトル……?」
「何?」
 笑顔のサトルの右腕に、銀色のアームレットが輝く。
「右手」
 ボクが指さすと同時に全員が気付いた。
「動いてんじゃねーか!」
「バカが溺れてて気付かなかった」
「良かったね」
 三人三様にサトルを祝福する。……て、ちょっと待て!
「ソウイチロウ、今、“バカ”って言った?」
「そうか?」
 外したメガネを服で拭きながらソウイチロウ。
「言った!」
「だっけ?」
「言ったよ!」
「いーじゃん!」
 ボクとソウイチロウの肩を両手で抱き寄せてリョウスケが左右にあるボクらの顔を見比べる。
「助けに行ったつもりが、助けられたのは事実だし」
 おいっ!
「こいつはただ単に、コミュニケーションが下手なだけだし」
「うるさいな!」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒