CLOSE GAME
水の塊の中、青い何かが再び光る。ソウイチロウが壁を解除して手を伸ばした。が、それをあざ笑うかのように、水はサトルを中に入れたままヒュンと飛んでいってしまった。
「何、今の!」
「サトルが連れてかれちゃった!」
驚き戸惑うボクらに、ソウイチロウがメガネを上げる。
「戻るぞ!」
言うが早いか、ソウイチロウが走り出した。ボクらも慌てて後を追う。氷柱の欠片とぬかるんだ地面に足を取られながら、走る先は回復の泉。?動けない?。そう思っていたのに、単純なもので、サトルを助けたい一心で足が前に出た。木々を抜けて、草をかき分けて……。これ以上はもう動けない。というところで、回復の泉に到着した。今度こそ肩で息をするボクらの目の前には、干上がってしまった回復の泉。計算外の出来事にソウイチロウの目が点になっている。
「どういう事だ?」
泉に被害が及ばないようにと態々ここから離れたのに……。
「サトル!」
泉の真上に、サトルを飲み込んだままの水の塊。まるでボクらを待っていたかのようにフワフワと浮いている。
「待ってろよ!」
リョウスケがフラフラと立ち上がって干上がった泉に足を踏み入れた。ボクもそれに続く。
泉の真ん中辺りで浮かぶそれは、手を伸ばせば届きそうな高さまで高度を下げていた。届きそうで届かない。そのもどかしさに、リョウスケが背中の大剣を抜こうとその柄に手をかけた瞬間、水の塊が、突然、パンと弾けた。
サトルひとりを飲み込むのにピッタリだった水なのに、弾けた瞬間、その水かさが増す。雨のようにボクらに降り注ぐ一方で、見る間に泉に水が溢れた。
「嘘っ!?」
ここは泉の真ん中。急な増水でボクらはあっという間に泉に身体を沈める事に……。
「ちょ! 待って! ボク、泳げな……」
水面から顔を出しているリョウスケの隣で、ボクは沈み始めた。うっかり水を飲むと苦しくなる。咄嗟に息を止めて、手足をジタバタと動かしてもがくボク。運がよければ、このジタバタで泳げてるかもしれない。なんて思うけど、それは余りに都合のいい解釈で、勿論、そんなわけはない。ジタバタしながら息を止めている事が限界になってきて、両手で鼻と口を塞いだ。その時、身体が水面へと向かっていることに気づいた。
跳ねる水しぶきと共に、頭が水面へと浮上する。
「お前、マジでスイミング習えよ!」
右からリョウスケの声。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒