CLOSE GAME
散り散りになったはずの水滴が物凄い勢いで集まり始めている。
「この野郎っ!」
リョウスケとサトルが剣を振るけれど、水は剣では切れない。どんなに細かくなっても、ドラゴンを形成するその核に集まっていく。その様子をジッと見ているソウイチロウのメガネの星がキラリと光った。
「タカヒサ、リョウスケ。もう一度、あいつを覆っている水を散らしてくれ」
何か分かったのかと、ソウイチロウを見るボクら。
「水が集まって形を作るのに、中心になる奴がいる。多分、そいつを壊せば、ドラゴンは消滅する!」
「「「分かった!」」」
ボクとリョウスケが攻撃する間、ソウイチロウが盾を持ち、サトルの剣と一緒に防御してくれると言う。
ボクらは応戦体制に入った。
「翠の風、蒼の風……」
素早く集まる水しぶきに、早口になる呪文。その所為だろうか? なんだか風が弱い気がする。
てか、そんな事、気にしている時間はない。早口がいけないのなら、その分、気持ちを込めればいい。
「我に集いて、その力を解き放て!」
言い切ると同時にリョウスケの大剣が振り下ろされ、ドラゴンの身体を形取る水が巻き上げられた。
「よし!」
ソウイチロウの声も束の間、今度は間髪入れずに水滴が戻って来る。
「何でだ?」
ソウイチロウがボクを見る。
「風が、さっきより弱かった気がする」
リョウスケもボクを見る。呪文が早口だったのがマズかったのかと思って、ふたりに告げようとした瞬間。身体中の力が一気に抜けて、ボクはその場に倒れこんだ。
「タカヒサ!?」
抱き起こしてくれたのは、サトル。
「ごめ……。力が、入んない……」
こんな大事な時に原因不明の脱力感。情けなくって涙も出ない。
「何がどうしたってんだよ!」
元に戻りつつあるドラゴンの青い目を前に、ボクを庇うように三人が剣と盾を構えた。
「タカヒサ!」
三人と反対の方向から聞こえた声に、視線を動かす。
「……ユウ、タ……」
半べそで走ってきたユウタが、ボクの手を握り締めた。
「怒ってるんだからね!」
ひとりで置いてきぼりにされて怒っているのだと言いながら、両手でしっかりとボクの手を握り締める。
「天の光、地の光……」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒